voice vol.16
voice
GALERIE VIE
Archive
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voice vol.16 / Asuka Miyata
編み、伝える。
テキスタイル アーティスト 宮田 明日鹿
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voice vol.15 / Masaki Hayashi
ささやかな音が奏でる音楽。
ピアニスト・作曲家 林正樹
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voice vol.14 / Kujira Sakisaka
書くことの不思議。
詩人・国語教室 ことぱ舎 代表 向坂くじら
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voice vol.13 / Satoko Kobiyama
食べ方の実験と愉悦。
山フーズ主宰・小桧山聡子
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voice vol.12 / Yuzu Murakami
読み解き、問う勇気。
美術批評・写真研究 村上由鶴
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voice vol.11 / Renge Ishiyama
永遠に片想い。
電線愛好家・文筆家・俳優・ラジオパーソナリティ 石山蓮華
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voice vol.10 / Haruno Matsumoto
描き切らない自由。
絵本画家・イラストレーター 松本春野
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voice vol.9 / Ami Takahashi
福祉の現場にも、色を。
アフターケア相談所 ゆずりは所長 高橋亜美
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voice vol.8 / Asa Ito
体の側から考える。
美学者 伊藤亜紗
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voice vol.7 / Akiko Wakana
人はつねに地上の一点である。
編集者・文筆家 若菜晃子
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voice vol.6 / Miyu Hosoi
言葉になりきらない声。
サウンドアーティスト 細井美裕
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voice vol.5 / Chiho Asada
映画が求めた第三者。
インティマシー・コーディネーター 浅田智穂
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voice vol.4 / Mariko Kakizaki
自分のクセと遊ぶダンス。
コンテンポラリーダンサー 柿崎麻莉子
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voice vol.3 / Rei Nagai
ただ、立っている。
哲学研究者 永井玲衣
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voice vol.2 / Midori Mitamura
記憶を紡ぎ直すアート。
現代美術作家 三田村光土里
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voice vol.1 / Maki Onishi
肌ざわりがもたらすもの。
建築家 大西麻貴
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編み、伝える。
voice vol.16 / Asuka Miyata
テキスタイル アーティスト
宮田 明日鹿
Photography | Yurie Nagashima
Styling | Yuriko E
Text and Edit | Yoshikatsu Yamatoギャルリー・ヴィーのスタンダードアイテムをご着用いただき、
多様な分野で活動する方々にインタビューをする“voice”。
ものづくりに込めたこだわりについて語る、作り手の声とともにお届けします。
第16回のゲスト・宮田明日鹿さんは、
家庭用編み機を使った作品制作をはじめ、
愛知県の名古屋市港区を拠点とした「港まち手芸部」の企画、運営者として、
なにげないおしゃべりをかわしながら、手芸という営みや
女性のものづくりに向き合ってきたテキスタイルアーティスト。場をつくり、ゆるやかに集まったひとたちと対話をして、
内側に仕舞われてきたものづくりの在り方を外側に出していこうとする
宮田さんの活動が投げかける問いかけとは。編みの目が伝える記憶。
糸の軌跡を目でなぞる。くるっとまわり、糸同士が絡む。少し離れて見るとイメージが立ち上がってくる。テキスタイルアーティスト・宮田明日鹿さんの作品は、向こう側が透けて見える。だから、作品とのあいだに取る距離やピントの合わせ方によって、鮮明なモチーフが浮かび上がったり、曖昧なパターンに見えたりと具体と抽象が移り変わるのだ。ニットの存在感はふわりと軽やかだが、繊細な編みの目には時間の経過を感じさせる強靭さも感じられる。
宮田さん
桑沢デザイン研究所でテキスタイルを勉強して、卒業後はカットソーをつくる繊維関係の企業で働いていました。次第に「手を動かして、作品を作りたい」という想いが出てきたんです。その当時、アナログな機械をコンピューターと繋いで可能性を広げようとする小さなムーブメントがあって、私は、家庭用編み機と出会って改造や研究に熱中していました。その後、さらにニットにたいする知見を広げたいなと、1年間、ドイツに渡ったんです。帰国後、依頼を受けて制作をしたり、現代アートの文脈で展示をしながら今に至っています。
制作はリサーチからはじまることが多いですね。展示場所となる土地の歴史、風習、さらに、素材との出会いなどがきっかけになり、それについて深く調べたり、話を聞いたり、本を読んだりしていくなかで作品の方向性がゆるやかに定まっていく。作品には、私自身がコントロールしきれない部分がいつもあるような気がします。外側にあるものとの偶然的な出会いだったり、糸が描く思いもよらない線だったり。あ、こうなるんだ、と私自身も驚きながら作っています。港まちに暮らす人々とのつながり。
家庭用編み機を用いた作品制作を行う宮田さんに、あたらしい流れが生まれたのは2017年のこと。愛知県、名古屋市にある港区のアートプログラム「MAT, Nagoya」が企画するスタジオプロジェクトとして、宮田さんは、商店街にスタジオを構えた。毎日のようにスタジオに通い、ガラス越しに作業が見えるスペースで家庭用編み機を使っていると「何をしているの?」と声をかけられるようになり、地域の方々との交流がはじまった。
宮田さん
手芸が好きな人から声をかけてもらったり、地域の人とつながって、この商店街で以前、手芸店を営んでいた現在98歳の行田さんを紹介してもらいました。彼女は手編みでなんでもつくってしまう達人。私はそのとき「手編み」を学びたいと思い始めていた時期で、ひとりで習っても続けられないかも、とまちづくりの拠点「港まちポットラックビル」のチームと話し合って思いついたのが「港まち手芸部」です。ドイツで過ごしていたとき、地域の人が集まり、スポーツのクラブであったり、歌のクラブを作って楽しんでいて、私も合唱のクラブに参加していたことも発想のきっかけかもしれません。行田さんは地域の有名人だったので、「あの行田さんに教えてもらえるなら」と自然と参加してくれる方が増えていきました。
こんにちは! 港まち手芸部です。
年齢や性別は不問。課題なし、予約も不要。自由に参加できる「港まち手芸部」は、2017年に発足して以降、現在も毎週木曜日に活動を行う。港まちづくり協議会の提案公募型事業に採択され、事業費を得て活動しているアートプロジェクトだ。地域の人たちをはじめ、アーティストが飛び入り参加をしたり、平均して15人ほどが集まり手を動かしている。
今年で8年目を迎え、現在も継続している長期のプロジェクトだ。つくるものは決まっていない。隣り合う参加者のおのおのがものづくりに集中する。わからないことがあれば互いに教えあい、おしゃべりをかわす。宮田さん
手芸部の企画運営者ではあるけれど、発足当時、私は棒針編みも出来ませんでした。教えてもらう側だったんです。教室とは違う気軽な場所にしたいと思ってきて、そういう手芸部のあり方が伝わり、みんな好きな時に来てくれるようになり、参加者は毎週違います。毛糸といった材料や編み針などの道具は、活動を知ってくれた人が寄付してくださったもの。日本各地で手芸部を立ち上げて、その地域に住む方が引き継いで継続してくれたり、出張手芸部というかたちで開催したりもしています。週に1回となると、生活の一部にならざるを得ない。私自身にとっての居場所にもなっています。
手芸文化を担う女性たちの存在。
地域の人と出会い、話をしながら、手芸をする。そんな時間を積み重ね、あらためて宮田さんが実感したのは、手芸と女性の関係だった。手芸は、家庭の内側にある「内職」、「趣味」として社会的には認められてこなかったという背景がある。
糸を編んで、なんでも作ってしまうスキルのある参加者の方から漏れる自信のなさ、家族からよく思われてこなかったという経験を聞くうちに、この手芸部は「家の中にあったものを外に出す」プロジェクトなのではないかと思うようになったという。手芸部で出会った方々の家を訪ね、これまでに作ってきたものを写真におさめるようになった。それを1冊にまとめたのが『Knitting'n Stitching Archives』(2024年11月発売開始予定)である。宮田さん
「ただの趣味だから」といった謙遜や、そう振る舞ってしまうことの背景には社会的な構造と関係があるのかもしれない。手芸部はゆるやかなつながりですが、私のように、アーティストと名乗る人が関わっていることで、何のためにやっているプロジェクトなんだろう? 手芸ってなんなんだろう? と考えてもらうきっかけになったらいいな、と思っています。
私を含め、手芸部の参加者のみなさんは、必ずしも思想や価値観が同じというわけではありません。お互いの暮らしや、パートナーについて、社会について気楽に語り合うけれど、そこにちょっとした意見のズレがあったりもする。そういう分かり合えない部分があるけれど、時間をかけて、私や相手の考えを伝えたり聞いたりできる場所としてとらえています。GALERIE VIE DIRECTOR’S NOTE
髪をとかすように毛をコーミングすることで、均一にした梳毛のカシミヤを、18ゲージで繊細に編み立てたニット。目を詰めすぎず、ほのかに透け感のある編地は、幅広い季節でカットソーのように着ることができます。襟は細く、リブはクラシックな仕様に。ふわりと軽やかであたたかい、次なる定番です。
こうした定番のアイテムは、ブランドらしさをかたちづくる大切なピース。その一方で、作り続けることによって、産地や工場なくしては実現し得ないものづくりやノウハウを守る継続的なものづくり、という側面もあります。
ニットは、糸、編み、そして洗いといった加工など、複数のプロセスを経て完成されていきます。私たちは、どういう場所で、どういうひとがつくるのか。人と人の関係性、熱量によっても、そこから生まれてくるプロダクトの空気感は変わると考えています。アップデートを加えながらも同じ素材を定番として作り続けることは、作り手との信頼を紡いでいくことでもあるのです。ものの来歴を知り、アーカイブすること。
手芸部の参加者の方々がつくった作品が掲載されているアーカイブブックをめくりながら、過去、見過ごされてしまったものづくりの営みもあったのではないかと思いを馳せる。
ただし、宮田さんの活動は、残る、残らない、人に知られる、収益になるかどうか、といった価値基準では測れないものづくりの喜びそのものについても気付かされる。人知れず、作り続ける熱意。そのものづくりは、私たちが普段、当たり前に感じている物の価値を揺さぶり、システマチックに整えられたファッションの産業にたいして揺さぶりをかけてくるような強さがあった。普段、手にする洋服も、もとを辿っていくと、個人の存在、個人と個人の関係、ひとりひとりの手がなければ作られないのかもしれない。テキスタイル アーティスト 宮田 明日鹿さん
HP:asukamiyata.com
Minatomachi Art Table, Nagoya
[MAT, Nagoya]
HP:www.mat-nagoya.jp「港まち手芸部」の活動拠点であり、撮影に協力ご頂いた「港まちポットラックビル」は、港まちづくり協議会が運営するスペース。
MAT, Nagoyaは名古屋港エリアをフィールドにしたアートプログラムとして、同ビル内を拠点に2014年から現代美術の展示やスタジオプログラム、アートブックフェア、ワークショップやイベントなど、さまざまなプロジェクトを展開している。