GALERIE VIE

voice vol.4 / コンテンポラリーダンサー 柿崎麻莉子「自分のクセと遊ぶダンス。」

  • 自分のクセと遊ぶダンス。

    voice vol.4 / Mariko Kakizaki

    コンテンポラリーダンサー 柿崎麻莉子

    Photography | Yurie Nagashima
    Styling | Yuriko E
    Hair and Make-up | Momiji Saito
    Text and Edit | Yoshikatsu Yamato
  • ギャルリー・ヴィーのスタンダードアイテムをご着用いただき、
    多様な分野で活動する方々にインタビューをする“voice”。
    ものづくりに込めたこだわりについて語る、作り手の声とともにお届けします。

    第4回のゲスト・柿崎麻莉子さんは、
    世界各地での公演やワークショップの指導を行うコンテンポラリーダンサー。

    ダンスをすることは、「おくすり」みたいなもの。
    そう話す柿崎さんに、身体を観察し、眠っていた感覚を呼び起こすアイデアを聞きました。
    気軽にトライできる、3つのチュートリアルもお楽しみください。

  • 身体そのものに潜む、カラフルなエネルギー。

    これじゃない、これでもない。ダンサーの柿崎麻莉子さんの歩みは違和感から始まった。小学生で新体操を始めて、中学時代には全国大会に出場するも、審査員の先生に「踊りを控えて、点数が入る技を磨いたほうがいい」というアドバイスを受け、はっきりと、誰かが勝って誰かが負ける「競技性」に興味がないと気づいた。筑波大学で創作ダンス部に入り、夏休みに世界中を旅したが、素晴らしいアーティストとの出会いはあっても、しっくりくるダンスとの出会いはなかった。悔しい。それでも大好きなダンスを信じ続けた。そして、イスラエルのダンスカンパニー「バットシェバ舞踏団」の日本公演を見て、これだ! と思った。

    柿崎さん

    ダンサーが動物みたいに見えたんです。体型も動き方も違う動物だけれど、みんなが舞台上でイキイキしていました。一言でダンスといっても、身体の扱い方には多様なアプローチがあります。身体を構造的に動かしたり、空間に対して身体をどう置くか、絵を描くように踊る人もいる。映像メディアに人間の身体を対置して、プリミティブな身体を提示する人や、演劇的に身体を扱う振付家もいる。

    バットシェバ舞踏団から私が感じたのは、生きている身体のカラフルな力を最大化するような踊りです。ダンスを通して私がしたいアプローチは、人間という動物がもともと持っている身体の可能性を思い出したい、ということだったんです。

  • 環境が身体を「振り付ける」?

    大学を卒業後、バットシェバ舞踏団に入団した柿崎さんは、カンパニーが拠点を置くイスラエルという国の多彩な表情と、ダンスや身体の結びつきを強く感じた。ざわめきに満ちた開発途上国らしい質感がある一方で、IT分野は急速に発展し、軍事産業と結びついたハイテクノロジーは世界に影響力を持つ。人と人の温かい交流がありながらも、どこかネジが飛んでいるようなクレイジーさが同居し、多様な宗教が混在するカオスな環境と身体の関係性をひしひしと感じた。

    柿崎さん

    環境によって、「歩く」という動きにもバリエーションがありますよね。たとえば、新宿駅を歩くときは、流れを妨げないように早く歩く。散歩をするように、色々な情報を歩きながら得ることもできるはずだけれど、都会はそれをさせてくれないと感じます。あの空間や状況は、私たちがスピーディに歩くことや、イヤホンをしたり、携帯を見て感覚を閉じてしまうことを「要求」しているというか。

    私は、環境が私たちにする「振り付け」があると思います。住む国や着ている服が違えば振る舞いも変わっていくように、環境が身体に与える影響もまた「振り付け」なのではないかと思うんです。

  • 役割によって、こわばる身体。

    田舎と都会。そういった地理的な条件など、目に見えてダイレクトに感じられる生活環境だけではなく、人それぞれが持っている職業上の立場や肩書きといった、目には見えないけれど存在している関係性や役割意識によっても、身体の動きや発言は制限される。これもまた「振り付け」かもしれないと、柿崎さんは続ける。

    柿崎さん

    私には子どもがいますが、今日のような撮影現場に赤ちゃんを連れてきたとしますよね。撮影の準備をしているとき、ヘアメイクさんに聞いたんです。「もしも、赤ちゃんがカメラに映ってしまうところに入ってこようとしたら止めてくれますか?」と。彼女は「たぶん止められると思います」と言ってくれました。

    これって、実際に子どもに触れることができる、抱っこができるという意味だけでなく「人の子どもに勝手に触れていいのか」、「自分はヘアメイクという仕事を今しているけれど、それ以外のことに手を出していいのか」といった役割意識のなかで、どう自分がふるまえるのか、ということです。こういう話はもしかしたらダンサーっぽくないかもしれません。でも、身体に向き合っている人はこういう観察をしていると思うんです。

  • ダンスがもたらす遊びの感覚。

    のびやかに踊るダンサーには、自由に振る舞うイメージがあった。しかし、柿崎さんの言葉からは、身体にかかるストレスやプレッシャーもまた敏感に感じ取るのが「ダンサー」なのかもしれない、と考え直させられる。しかし、不自由に感じた体験や、身体との対話を積み重ねてきたからこそ、凝り固まっている部分をほぐすことができるのも、ダンサーならではの視点だろう。

    柿崎さん

    ダンスのワークショップに参加してくれる方は、緊張をしている人が多いですね。リラックスしてもらうために、たとえば「頭をくるくる回してみましょう」って言うと、みなさん真剣に頭を回すんです。でも、客観的に見てみようよって。「みんなで頭を回して、なにやってんだろうこの人たち」って感じですよ(笑)。だから、自分変なのー、と思うくらいでいいんです。もちろん、真剣になって、集中することはとても素晴らしい。でも、ちょっとふざけてニヤニヤするのもいいなって私は思います。

    遊びがないと、自分の計算範囲内におさまってしまう。自分の安全ラインの外側に行くには、ちょっとばかになるくらいがいいときもあるんじゃないか。だから普段ダンスをしている学生には「小学生を笑わすような気持ちで」とか「大好きなおじいちゃんに踊ってるくらいの気持ちで」と声をかけます。そうすると、みんな朗らかになって、愉快になる。踊り方が、自分中心ではなくなるんです。

    ということで、すぐに試せて身体感覚がほぐれるチュートリアルを、3つ提案してもらった。
    ひとりで、友人と、あるいは恋人や家族とぜひやってみてください。

    • ベロの重さをチェックしてみる。

      だらーんと力を抜いて、舌の重さを感じる。普段、存在をあまり意識していないベロ。
      外から見ても、どこも動いていないエクササイズ。
      仕事中、眠る前、誰にも気づかれず、ちょっと息抜きにやってみる。

    • 目が後頭部にあるつもりで、頭を回しながら部屋を眺めてみる。

      目は開いていてもいいので、30%くらいに弱める。
      そして、自分の後頭部を回しながら、天井を眺める。壁と自分の頭の距離を感じてみる。

    • 手で頬っぺたを触ってみる。

      自分にこう聞いてみる。「頬っぺたはあったかいですか?」。
      次は、頬っぺたで手を触る。自分に聞いてみる。「手は冷たいですか、あったかいですか?」。


    手は、触るほうに慣れている。でも、触られることもある。
    頬っぺたは、触れられることに慣れている。でも、触れることもできる。

  • GALERIE VIE DIRECTOR’S NOTE

    細かな粒子が、風に吹かれて飛ぶ。軽やかに舞って、ふわっと落ちる。肌につかずはなれず寄り添って美しいドレープをつくる「パウダーコットン」。高速ではなく、ゆったりと時間をかけて編むことで、細い糸と糸のあいだに自然と空気が含まれて、新感覚の柔らかさが生み出されています。

    青林檎のようなみずみずしいカラーは、ワードローブにフレッシュな空気をもたらす「意外性」の要素。インナーとしてちらっと見えるだけでも、シャツやニット、コートを際立たせながら、いつもの「自分らしさ」を軽妙に裏切って、遊びやユーモアを感じさせる差し色になるのではないでしょうか。

  • 衣服が引き出す”らしからぬ”仕草。

    チュートリアルを通して、あまり日常でしない動きをしてみると、普段意識をしていない身体の部分が気になってくる。そして観察する。変な気持ちになったり、「なんなのこれ?」と笑えてきたり。柿崎さんが付け加えるのは、できているか、できていないか、上手か下手かをジャッチメントしたり、なにかを理解しようとしたりしなくてもいい、ということ。

    柿崎さん

    日々の動きには、人それぞれクセがあると思います。試着室で服を着るときも、鏡の前に立つだけでなく、普段するような仕草や動きをやってみたらどう見えるのか、動きながら確認する人も多いんじゃないかな。逆に、新しいタイプの服を着ると、”自分らしからぬ”仕草をしてみたくなったり。いつもとすこし違うものを試すと、自分が気持ちよく感じられることの幅が広げられると思うんです。

    もともと、私たちの身体はたくさんのことを感じています。今着ている洋服に皮膚を擦りつける動きをしたら、肩や二の腕、背中でも、素材を感じられますよね。「着心地」って言葉があるけれど、それって具体的にはどこで感じていることなんでしょうか? こういう発想も、ある意味、自分が頭で考えている範囲からはみ出してみること。「背中の着心地」って言うと、なんだか面白くないですか。普段は意識していない、開いたことのない引き出しがそこにあるような気がしてくるというか。そうやって、身体がすこしずつ教えてくれるんです。

  • 柿崎麻莉子 ウェブサイト
    mari-kaki.amebaownd.com


    DANCE BASE YOKOHAMA(DaBY)

    撮影にご協力いただいた「Dance Base Yokohama」は、2020年6月に横浜・馬車道に設立されたダンスハウス。
    コンテンポラリーダンスに関する企画や事業の運営を行う文化・芸術スペースとして、
    ここでたくさんのプロフェッショナルなアーティストが創作活動を行い、ダンスをめぐる大勢の人々と、育ち、集まり、ともに交流しています。

    柿崎さんは、DaBYレジデンスアーティストの一人として、作品の創作やワークショップ、実験的なトライアウト公演を行なっています。

    ※イベントスケジュールをはじめ、詳しい営業時間等はホームページをご覧ください。
    dancebase.yokohama
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