voice vol.1 / 建築家 大西麻貴「肌ざわりがもたらすもの。」
voice
GALERIE VIE
Archive
-
voice vol.17 / Kakuro Sugimoto
わりきれなさと向き合う。
漢方家 杉本 格朗
-
voice vol.16 / Asuka Miyata
編み、伝える。
テキスタイル アーティスト 宮田 明日鹿
-
voice vol.15 / Masaki Hayashi
ささやかな音が奏でる音楽。
ピアニスト・作曲家 林正樹
-
voice vol.14 / Kujira Sakisaka
書くことの不思議。
詩人・国語教室 ことぱ舎 代表 向坂くじら
-
voice vol.13 / Satoko Kobiyama
食べ方の実験と愉悦。
山フーズ主宰・小桧山聡子
-
voice vol.12 / Yuzu Murakami
読み解き、問う勇気。
美術批評・写真研究 村上由鶴
-
voice vol.11 / Renge Ishiyama
永遠に片想い。
電線愛好家・文筆家・俳優・ラジオパーソナリティ 石山蓮華
-
voice vol.10 / Haruno Matsumoto
描き切らない自由。
絵本画家・イラストレーター 松本春野
-
voice vol.9 / Ami Takahashi
福祉の現場にも、色を。
アフターケア相談所 ゆずりは所長 高橋亜美
-
voice vol.8 / Asa Ito
体の側から考える。
美学者 伊藤亜紗
-
voice vol.7 / Akiko Wakana
人はつねに地上の一点である。
編集者・文筆家 若菜晃子
-
voice vol.6 / Miyu Hosoi
言葉になりきらない声。
サウンドアーティスト 細井美裕
-
voice vol.5 / Chiho Asada
映画が求めた第三者。
インティマシー・コーディネーター 浅田智穂
-
voice vol.4 / Mariko Kakizaki
自分のクセと遊ぶダンス。
コンテンポラリーダンサー 柿崎麻莉子
-
voice vol.3 / Rei Nagai
ただ、立っている。
哲学研究者 永井玲衣
-
voice vol.2 / Midori Mitamura
記憶を紡ぎ直すアート。
現代美術作家 三田村光土里
-
voice vol.1 / Maki Onishi
肌ざわりがもたらすもの。
建築家 大西麻貴
-
肌ざわりがもたらすもの。
voice vol.1 / Maki Onishi
建築家 大西麻貴さん
Photography | Yurie Nagashima
Styling | Yuriko E
Hair and Make-up | Rumi Hirose
Text and Edit | Yoshikatsu Yamato
ギャルリー・ヴィーのスタンダードアイテムをご着用いただき、
多様な分野でユニークな活動をする方々にインタビューする“voice”。
ものづくりに込めた大切なこだわりについて語る、作り手の声とともにお届けします。第一回のゲスト・大西麻貴さんは、パートナーの百田有希さんとともに
「o+h」というユニットで住宅や商業施設、公共施設といった建築の設計をなさっている建築家。建築と洋服。これらに共通しているのは、どちらも、私たちを包みこんでいるものだということ。
肌が感じる「触感」をキーワードに、お話を聞きました。
障害のある方々との協業で、気づいたこと。
壁は、あるひとにとって「触れるもの」であり、あるひとにとっては「見るもの」である。大西さんが、当たり前だとも思えることにふと気づいたのは、障害のある方々がはたらき、アートやプロダクト、サービスを提供する〈Good Job!センター 香芝〉という施設を設計したときだった。
大西さん
目の見えない方が、壁に触れながら歩くとき、壁の素材の切り替わりでスペースの変化に気づくというお話を聞きました。私たちは壁の表面の肌理の違いを、あくまでも意匠的なものだと認識していましたが、実際に触る方もいる。壁の触感の変化が、メッセージにもなることを知ったんです。
さまざまな用途に開かれた建築をめざす。
壁という建築にとって基本的なものでも、こうして受け取り方に違いがあると知ったのは、建築家としてより多角的な視点で素材選びをするきっかけになった。その一方で、建築のさまざまな部分を「障害のある方のためにつくる」という、ひとつの目的のために進むことは避けたという。
大西さん
依頼者である〈たんぽぽの家〉は、奈良県で40年以上、障害のあるひとの創造力をアートや仕事につなげる活動をしていらっしゃいます。そんな方々との打ち合わせで、障害のある人に対して建築を設計をするとき、気を付けるべきことはなんですか?とお聞きしたことがあって。その答えは、特にありません、というものでした。
私は、彼らと一緒に仕事をするまで、障害がある人を、自分と遠い存在だと思い込んでしまっていたのかもしれません。しかし、この対話から、障害の有無によって誰かを分け隔てる線は、本来はなく、ひとりひとりの方に感覚があり、気持ちいい空間は気持ちいいし、気持ち悪い空間は気持ち悪い、という当たり前のことにも気づいたんですね。なので、法的に取り付けなければならない手すりや誘導ブロックなども、それを必要としている方への配慮はもちろんですが、ときには遊び道具として使える形状にしたりと、さまざまな工夫をして、用途に広がりをつくることにしました。
触覚的な想像を刺激する、“見た目”の可能性。
大西さん
また、“ふれる”には、実際に手で触れるといったことだけでなく、見ることによって触覚が触発される経験もあると思いませんか? たとえば、タイルの表面から、ひんやりとした感じや、なめらかな感じを想像するとか。つまり、視覚的にキャッチしたものから、温度を感じたり、肌にふれたときの触感を想像するということです。
建築は、見た目で、美しさが測られてしまいやすいと感じます。洋服もそうかもしれません。しかし、もうすこし、触覚や嗅覚、聴覚など、視覚以外の感覚で考えてみてもいいと思うんです。それも単に、実際に触れたり、嗅いだりするだけではなくて、触ったらどんな肌ざわりなのか、舐めたらどんな味がするのか、見るだけで想像が引き出される建築があったら、それは豊かな空間だと思います。
GALERIE VIE DIRECTOR’S NOTE
洋服は、肌に触れているのが当たり前。そのため、着ているあいだずっとそれを意識していることはありません。しかし、脱ぎ着の動作やふとした瞬間に、肌ざわりは心にも響くとギャルリー・ヴィーは考えます。
ボディコンシャスになり過ぎないギャルリー・ヴィーのハイゲージリブニットは、ギザコットン100%の柔らかいタッチが魅力の定番素材。表には見えづらいものの「本当にいい洋服は、内側の仕様や構造も綺麗」という考えから、縫製の始末にもこだわっています。
日常生活は、気分のいいときばかりではありません。雨が苦手な人にとっては雨が降る憂鬱な日にこそ、着心地のいい洋服が頼りになるのではないでしょうか。
気分が下がったときこそ、安心してこれを着たい。そう思える洋服が、みなさまにとっての「定番」になると考えます。見た目の美しさだけではなく、ふれたときに肌の喜びがある。そんな着心地を目指して細かなアップデートをしているのが、このハイゲージニットのシリーズです。
大西さんにとって、居心地いい建築は?
大西さん
行き止まりがない、ということです。ここから入って、そこから出る。あっちからも入れるし、そっちからも出れるかもしれない。いろんな方向から入る光や、いろんな方向に抜けていく風。
完全に閉じるのではなくて、気配が行き来する。隣のひととゆるやかに繋がっていられる。
そういう空間が、気持ちのいい空間だと思います。向かい合うものがなにかによって、はたらく五感は固定されてしまっていることがある。だけど、想像の幅をすこし広げてみれば、洋服も、建築も、もっと自由に楽しめる。たとえば、洋服を音から感じることだってできるかもしれない。
大西さんの声をヒントに広がるのびやかな想像力は、安定している「スタンダード」というものに、展開をもたらしてくれる。日々身に着ける定番にこそ、自分だけの楽しみ方や、あたらしい感じ方があるのかも。そんな期待を抱けるお話だった。