Side B - the essence of tomorrowland -
Special Interview
EDWIN × TOMORROWLAND
トゥモローランドと〈EDWIN〉により0からスタートしたスタンダードなジーンズ作り。
前編では、そのきっかけと両社の親和性について歴史を紐解きました。続編となる本稿では、実際に工場へと足を運んで見聞きした内容をお伝えします。
- 株式会社エドウイン メンズ企画
草野 豪
物静かな佇まいに秘めたジーンズへの熱意で、本質的な価値観を具現化していく次世代のホープ。ものづくりの真髄を極めんとするバランス感覚に定評がある。オートメーション化の利便性を活用する経験値
- ―実際に一本のジーンズが生み出されるまでの工程を追わせていただきましたが、ここまでシステマチックでイノベーティブな現場だったということに驚きを隠せませんでした。改めて今回のコラボレーションアイテムが生まれるまでの流れをお聞きしていけたらと思います。
草野さん(以下、草野。敬称略):大きく分けて生地を裁断して縫い合わせる「縫製工場」と縫い上がったものに洗いをかけたり加工を施す「加工工場」の2大工程を見ていただきました。どちらもマーケットのニーズに合わせた対応力の強化を常習的に行っており、日進月歩な開発が実践されています。
―まずは「縫製工場」での作業を教えて下さい。この度は「みちのくジーンズ 十和田工場」の工場長である佐藤さんにもご案内いただきました。
佐藤義弥さん(以下、佐藤。敬称略):基本的には原反が搬入されてから裁断し縫製する、という進行になります。まずは型入れという、デザイン室で作成された型紙データのパターンを受け取り、裁断用のマーキングをします。1枚の平面である生地に対して無駄がないように隙間なく型取りをするのですが、セルビッジデニムの場合は耳の部分を勘案する必要があるため、非常に贅沢な取り方になるのが特徴ですね。
―取り都合を考えて最大限の無駄をなくす作業はパズルの様でした。おっしゃる通り、セルビッジ生地では前後の身頃以外の部分が使えず多くの余白ができていたのが印象的。もったいないので、残反を使ったポーチやブックカバーなどといったノベルティに転用できるよう持ち帰って考えます。
草野:できるだけ無駄な生地が出ないように緻密な型入れを行っていますが、さすがにゼロにはできません。製造過程で出た裁断片と呼ばれるハギレは、組成別に分類し、車の防音材への再利用や、再びジーンズに使用する糸に戻す取り組みなど、様々な形でリサイクルし、環境に配慮しています。その後は延反という工程で生地を伸ばし、CAM(Computer Aided Manufacturing System)と呼ばれる自動裁断機を用いて裁断を行います。これらの工程は自動化が進んでいるとはいえ、その日の温度や湿度だけでなく、それぞれの生地特性によって人の手と目で最適なセッティングに調整する必要があります。
―長年の経験値があるからこそ、その生地に合ったやり方ができると。その後は裁断したパーツ毎に手作業でナンバーを振っていましたよね?
佐藤:同じデニム生地に見えるものでも、染色ロットや糸質の違いで色ブレが発生することがあります。製品化された状態でそういった違和感が出ないよう、同一の原反から裁断したパーツを使うための作業は必要なのです。
―ベルトループなどの小さな部分でもきっちり同じ生地から縫い上げられるということですね。
佐藤:実際には気にならないレベルなのかも知れませんが、そこは妥協していません。その後はナンバリングしたパーツを1枚毎に検品。ここまでで一連の裁断工程は終了となります。
草野:工場にある大きな機械自体は購入したものになるのですが、この工場で感じた疑問点などをフィードバックして常にアップデートしています。時にはワンオフで職人が金型から作ったパーツなども組み入れながら、質と生産性の向上を図っているのです。
―より良くしたい、という思いが広く浸透していることが分かりました。次は縫製工程について教えていただきます。
緻密な計画に併せた職人技の競演
- ―裁断で切り分けられたパーツを使ってジーンズに仕上げていく縫製作業は、パンツを作り出すメインとなる部分ですね。まずは何からスタートになるのでしょうか?
佐藤:まずは製品の仕様書やサンプルの確認です。そして完成させるジーンズから逆算して工程分析を行い、専用のライン編成を設定します。各工程に必要な設備や人員を考えるのですが、各自が過去に担当した様々なデータを勘案し最も効率の良いラインを練り上げるのが肝となっています。
草野:ジーンズ縫製におけるチーム編成会議のようなものです。平面的な生地を立体的に仕上げる為には数値と共に経験則や職人の得手不得手などがあるので、どの工程にどの配置をするのかで効率が変わってくるのです。トゥモローランドさんとのコラボレーションモデルではより高いクオリティが求められたこともあって、こちらでも万全の備えで臨みました。
―工場内を駆け巡るハンガー吊りになったジーンズが印象に残りました。まるで自動車工場のように各工程が機能し、リレーのように引き継がれていく様子は圧巻です。
草野:およそ40年、一針入魂で培ってきたノウハウがあります。先ほどの裁断工程でも触れましたが、研究や開発を積極的に行っています。ここにある設備のほとんどがオリジナルの仕様ですし、独自の改造をされたものとなっています。
佐藤:金型作りだけでなく、例えばミシンの圧を調整する部分はバネだったのですが、空気圧で数値化できるよう改良しました。これにより職人個人が感覚で実施していたものがガイド化できるようになり習得スピードが早まります。次世代の担い手を現場で育成する一助になっているといえるでしょう。
―メイド・イン・ジャパンのデニムと聞いていましたが、本当に工場では日本の方ばかりが作業しているのにも驚きました。地元での雇用確保はもちろん、ロストテクノロジーにならないよう技術を引き継いでいく事にも熱心なのが分かります。
草野:最近のものづくりの現場では後継者問題が世界的に頭を悩ましている状況が続いています。旧態依然としたものに縛られることなく創意工夫を続け、幅広い世代がジーンズ作りに関わってもらえるような環境作りを常に考える必要があると捉えています。
―トゥモローランドでも多くの工場さんとお取り引きがありますが、技術の継承は切実な問題ですよね。そんな中、若い方が素晴らしい技術で縫い上げているところを間近で見学させてもらえたのは貴重でした。やはりセンスの良い方が難解で重要な工程を担うことが多いのでしょうか?
佐藤:丁寧に時間をかければ良いものは作れます。ただ、我々は量産品を常に縫い上げるという命題があるため安定したスキルを継続できることがプライオリティな部分がありますね。そういった意味でベテランは信頼感が高いのですが、若い職人で頭角を現すのは貪欲にノウハウを吸収しようとする積極性があるタイプが多いです。
草野:先輩から習ったことを実直に試して数を重ね、ちょっとしたことに気づいて改善を進言するよい風土があります。そのようなムードが現状維持ではなく、常に新しい手法にトライすることに繋がっているのは間違いありません。
―まさに温故知新だと。そこまで見るのか、というほど厳しい項目をクリアしたものだけを出荷する独自の検品基準も、裏を返せば自信の表れであるともいえますね。
佐藤:微細な点も見逃さない体制や、第三者機関による抜き打ち検査なども実践しています。ジーンズは裏返せばそのクオリティが分かります。ここで縫ったものは世界のどこに出しても恥ずかしくないと断言できます。日本製の美意識や連綿と受け継がれ発展していった技術を、一人でも多くの方に実感していただけたら嬉しいですね。
草野:やはり良い仕上がりのものは存在感が違います。トゥモローランドさんの思い描いた一本を縫い上げられた経験はこの工場でも大きな財産になるでしょう。そして、この状態ではリジッドのジーンズが加工工場に回されて最終的な仕上がりに至ります。
次はジーンズを中心とした衣料品の加工・開発の拠点、MCDと呼ばれる場所へご案内させていただきます。
ITEM
- ラインナップはスリムテーパード、レギュラーテーパード、ルーズストレートの3種類の展開。
腰回りが直線的かつ、股上を少しだけ浅めに設定することですっきりとした印象のモデルをベースとした3つのシルエット。