Side B - the essence of tomorrowland -
Special Interview
EDWIN × TOMORROWLAND
トゥモローランドが展開するMDにフィットする定番デニムを開発するに当たり、白羽の矢を立てたのが海外市場でも長く支持される作りの確かさと、日本製ならではの妥協がない作りに定評のある〈EDWIN〉。
今回のコラボレーションについて、プロジェクトを牽引する草野さんに話を聞きました。
※続編では、青森にある縫製工場と秋田にある加工工場へと赴き、確かな品質を支える背景を探ります。
- 株式会社エドウイン メンズ企画
草野 豪
物静かな佇まいに秘めたジーンズへの熱意で、本質的な価値観を具現化していく次世代のホープ。ものづくりの真髄を極めんとするバランス感覚に定評がある。目指したのは、洗練された本物のジーンズ
- ―ここ数年、常に店頭展開される定番デニムを開発したいという思いがトゥモローランドにはありました。様々な可能性を模索する中で、最終的に「餅は餅屋」ということで15年ほど前よりお付き合いのある〈EDWIN〉さんに相談させていただいたのが始まりでした。
草野さん(以下、草野。敬称略):お話をいただいてすぐに足を運んでいただき、我々が持つアーカイブやサンプルを1本ずつ試してくださったのが印象的でした。シルエットや生地感はもちろん、色味の出し方などを熱心にディスカッションできたのは非常にありがたかった記憶があります。実際の製品化までには紆余曲折がありましたが、起点の部分でイメージのすり合わせが高精度で実現できたことは大きかったですね。
―こちらから実物の古着を持ち込み、微妙な色のニュアンスなどを意見交換させていただきました。ジーンズというとアメリカのイメージが強いものですが、トゥモローランドの世界観ではもっとヨーロピアンな普遍性が欲しいというのがリクエストの芯。実物を試すことができたので型などは比較的スムーズに決めることができました。
草野:選ばれたのは国内向けのラインとは異なる海外輸出モデル。ウエストがストレートの洗練された意匠が特徴です。トゥモローランドさんはジーンズ単体ではなく、スタイリングを俯瞰で捉えていたのが印象的でした。我々はどうしても量産ベースの実用品という部分が根底にありますので。
―コンセプトの1つは〈J.M.Weston〉の靴に合うジーンズでした。ユーズドの加工に関しても、濃淡が強いビンテージ方面ではなく、90’sを想起させる淡い色落ち。単品で悪目立ちすることなくコーディネートに馴染むデイリーさが欲しかったのです。
草野:おかげさまで〈EDWIN〉は今でもヨーロッパで高い人気を獲得しているのですが、80年代から世界進出してきたノウハウがあるのは大きいですね。正直、今回ご依頼された色の表現を完遂するのには苦労が多かったのですが(笑)、双方が納得するプロダクトになったのは嬉しかったですね。
―通常だともっと多くのラリーを重ねるのですが、〈EDWIN〉さんが出してくるサンプルはその回数が少なく、すんなりと進んだ事に驚きました。こちらの思いを汲み取ってアップデートしてくださる精度がすごいなと。縫製など作りの部分も、まさに本物。培ってきた歴史の凄みを感じます。
草野:やはりイメージの擦り合わせ濃度が濃く、ゴールの目線合わせがブレなかったのが大きいのかと思います。確固たるものがお互いに思い描けた場合は動きやすいです。曖昧なご依頼だと徒に回数を重ねてしまいがちなのですが、ニュアンスの表現を含め、密に相談させていただけたのは助かりました。
ものづくり面でのシンパシー
- ―先ほど80年代から世界を相手にされてきたという話もありましたが、改めて〈EDWIN〉さんの歴史をお話いただけますか?
草野:1947年に、常見米八商店として創業され、米軍払い下げ衣料品の卸しを始めたのがルーツです。アメ横で中古のジーンズが販売された後に新品も輸入されるようになるのですが、当時の米国製ジーンズは、固い、縮む、色落ちする、そして高額であったことから、日本の市場にフィットしませんでした。もっと日本人の体型にあった、履きやすいジーンズを自分たちの手で創ること、この思いがジーンズメーカー〈EDWIN〉の原点となったといえます。
―戦後の黎明期にアメリカンデニムに関わったことがスタートなのですね。〈EDWIN〉のレーベルが生まれたのもその頃でしょうか?
草野:アメリカからデニムを輸入し、国内縫製を始めたのが1961年になります。そこから〈EDWIN〉を冠した国産ジーンズが誕生しました。 その2年後にはペルーのタンギス綿を用いた16ozのレインボーセルビッジ(耳つき)デニムを紡績と開発し、生地から一貫したオリジナルのコンセプトを持った国産のオーセンティックなジーンズ「359BF」を発売します。当時、輸入されていた米国のジーンズの硬さや、縮み、色落ちの問題を解消するため、ワンウォッシュ加工を開発。一度洗うことで、ジーンズに快適な履き心地と安定性をもたらしたウォッシュ加工は、以後、ジーンズに欠かせないプロセスとなりました。
―今回のコラボレーションモデルでも採用したレインボーセルビッジは、そんな歴史的な記念碑モデルへのオマージュでもありますね。お聞きしている限り、〈EDWIN〉のジーンズは常に新たな可能性を探求しているイメージがあります。
草野:70年代以降はファッションアイテムとしての需要も高まり、ユーズド加工の開発も本格化していきました。石とミキシングマシーンによる加工技術である「Stone Wash」が完成するのは80年代に入ってからになります。
―エポックメイキングな技術である「Stone Wash」はその頃に開発されていたのですね。以後は世界進出が加速し、欧米での人気が逆輸入される形で日本マーケットに受け入れられたのでしょうか?
草野:そうですね。83年にはその勢いもあって日本国内ジーンズ売上げNo.1を達成することができました。90年代以降はムラ糸を用いたシリーズや生地開発などを経てヴィンテージブームを牽引し、数多くのバリエーションを展開。現在に至るといったところです。
- ―時代の潮流にアジャストしてニーズに応える柔軟さはもちろん、それを実現する技術力の高さがあってこそなのでしょう。ものづくりの追求という点でトゥモローランドのスタンスとも共鳴する部分が多そうです。
草野:元来、ジーンズというのはワーカーのための実用品として誕生したこともあり、機能的かつ丈夫であることが第一。それゆえに犠牲にされている部分を日本人ならではの繊細さと探究心でアップデートしてきた経緯があります。目に見えない部分にまでこだわり、より良くしていこうとする姿勢にはシンパシーを感じます。
―今回のコラボレーションを通して期待されることなどはありますか?
草野:トゥモローランドさんのイメージとして、ドレッシーでキレイ目なスタイルというものがあります。一方で我々はカジュアルを主戦場にしてきたので、そのフュージョンが楽しみですね。長年、世界のマーケットを相手にしてきたこともあり、ジーンズ作りという意味では何にでもなれる柔軟性も備えている自負があります。ファッションを入口に深淵なるデニムの世界に興味を持っていただくのもいいですし、掛け合わせの化学反応が生み出す効果も見届けていけたら嬉しい限りです。
―それでは、後編では実際の製品開発について工場での作業も含めて詳しくお話を聞かせてください。
草野:メイド・イン・ジャパンにこだわる縫製工場と加工・開発を担うM.C.Dをご案内します。今回のコラボレーションモデルに備わる革パッチには両社のロゴが併記されていますが、これは弊社としても非常にレアケースとなります。お話をいただいてから実際に製品化されるまでの流れを追っていただく中で、価値観や心意気の合致があったからこそ結実できたというバックストーリーをご紹介できたら幸いです。
ITEM
- ラインナップはスリムテーパード、レギュラーテーパード、ルーズストレートの3種類の展開。
腰回りが直線的かつ、股上を少しだけ浅めに設定することですっきりとした印象のモデルをベースとした3つのシルエット。