GALERIE VIE

TALK WITH / NAOMI HIRABAYASHI

  • 2025 SEPTEMBER.1 Mon

    TALK WITH…

    変わらずにいることと、基準の見つけ方

    NAOMI HIRABAYASHI(Art Director)

    PHOTOGRAPHY. SHUSAKU YOSHIKAWA
    TEXT AND EDIT. AYUMI TAGUCHI (kontakt)

    ギャルリー・ヴィーが40年にわたって歩んできた旅を支えてくれているのは、モノづくりの現場で活躍するプロフェッショナルたち。
    「TALK WITH…」では、私たちが長年信頼を寄せてきた、様々なジャンルの作り手のもとを訪ね、お仕事や生活への向き合い方、大切にしている価値観、今のスタイルに辿り着いた経緯などを、じっくりとお聞きします。

    今回の対話相手は、アートディレクターの平林奈緒美さん。ギャルリー・ヴィーのカタログや、本サイトのトップに掲げた40周年記念ロゴをはじめ、数々の企業やブランドのアートディレクションを手がけています。

    「デザインは、されていることを感じさせないくらいの方が好み」という平林さんの仕事には、無駄がなく、一見そっけないようでいて、細部まで丁寧で親切な配慮が行き届いています。その世界感は一貫していて、一目見れば「これは平林さんのデザインだ」と頷いてしまう。その印象は、ご本人にお会いしたときにも変わりません。

    仕事のスタンスや自身の服装についても、「仕事では一切電話に出ない」「ピアスは2つだけ」など、自分のスタイルをぶらさず、全てにおいて潔い。変えないという選択、そこに辿り着くまでの経緯、そして買い物へのこだわりなどを聞きました。

    白のNIKEのエアフォースワンに、ダイヤモンドのピアス。そしていつもの黒縁メガネ。平林さんのスタイルは変わりません。

    「あんまり色々なものを試してみたいと思わないんです。選択肢を増やすことに興味がなくて。物欲がないわけではないんですけど」と話す平林さん。似ていれば似ているほど欲しくなるという、独自の選び方があります。

    ずっと身につけているものの代表的な存在が、ナイキのエアフォースワン。

    「1991年からずっと履いています。他にもスニーカーは持っていて、朝出かけるときに色々履いてみたりするんですが、結局これに履き替えてしまう。迷わずにさっと履けて、ボロボロになったらいつでも買い直せるのがいい」

    ソックスはいつもナイキの3足セット。ペアが迷子にならず、劣化の度合いが左右均等になるように、内側に1、2、3と番号を振るのが習慣。
    そして、ほとんど毎日身につけているダイヤモンドのピアス。

    「ピアスはダイヤモンドか、冠婚葬祭用の一粒パールだけ。ダイヤモンドの方は、実は少しずつ大きくなっていっているんです。最初は同じデザインのもっと小さなダイヤのピアスを贈り物でもらって。そこから少しずつ色々なきっかけで大きくなっていきました。基本的に、新しいものを買ったら、日によって付け替えたりせずにそればかり身につけていることが多いです」

    デザイナーの仕事に欠かせない、毎日持ち歩く道具も決まっています。

    「ものを書くときの紙質にはかなりうるさいです。学生が使うような、ざらざらして裏写りするくらいの、ちょっと貧乏くさい紙が好き。ノートは自分の中で最近A5サイズが流行っていて、打ち合わせでのメモなどを書いて、同じサイズのファイルに案件ごとに貯めていくことにしています。小さいノートは、ずっと残しておきたいメモ書き用に使い分けています」

    方眼のA5ノートはドイツに行った時に見つけた学生用のもので、20冊まとめて購入したとか。ピチピチにシュリンクされている状態でまとめて買うのが至福の行為。気に入って買ったものは、また買い足せるように購入履歴までも管理していて、商品サイトをPDF化して、一つのデータボックスにまとめているほど。

    平林さんのオフィスも整理整頓が行き届き、仕事の案件別に整理されたファイルのナンバリングや、ゴミ箱の分別ラベルまで、まるで誰もがサインを理解できる空港のように、どこに何があるか一目瞭然。整理整頓することについては、「精神統一の手段なんです」と語ります。

    「整理整頓が好きというよりは、分別してしまっていく行為自体が好きです。もしも生まれ変わったら、政府機関やFBIなんかの資料を整理する、アーキビストになりたいです。彼らは整理するだけじゃなく、言われたものを出せるだけの知識と、それをどう分別するか分かっている。憧れの職業ですね」

    今までの海外渡航のフライトチケットも、ラベル付きの引き出しに長年収納保管されています。

    「なんだか捨てられなくて、捨てずに残しておいたら止まらなくなりました。旅に出たら、どこに行ってもその場所の雰囲気を感じたり音を聞いたりするのが好きですね。結局、ロゴやらパッケージのデザインもその単なる一部なんです。頑張ってデザインすれば良いというものでもない。そこを理解できていないと、デザインはただのノイズにしかならない」


    最近新しく購入して気に入っているのは、スマホプリンター。

    「インスタの広告でたまたま流れてきて、面白そうだなと思ったので調べていったらこのメーカーに辿り着きました。本当は上部にロゴがついているはずだったのに、自分が受け取ったらロゴがなくて、ラッキーでした。これは単に楽しい新たなおもちゃとして使っています。感熱紙で出力される質感がいい感じで」

    新しいものを買うときも入念なリサーチを欠かしません。

    「買い物は好きなので、常に欲しいものを探しているという感じです」

    平林さんが買い物をするときのリサーチは、並大抵の人よりも、深くて多角的。eBayも頻繁に利用しているそうで、サイトをざっと見て、目に止まったものがあればそのキーワードで世界中のサイトを掘って調べていく。その行為自体が楽しいのだと言います。
    ゆえに、たとえオンラインショッピングでも、「届いてみたら思ったものと違った」なんて失敗は滅多に起こりません。

    「複数のサイトを見ればいろんな角度でものが見られるから、どんなものなのかは大抵わかります。高額なものほど、どうせ買うなら1日でも早く買ったほうが人生の中での減価償却が安くなるという考え方なので、欲しいと思って買える状況だったらすぐに買っちゃいます」

    本当にいいものを見抜くための眼が鋭いのは、昔からの習慣に繋がります。

    「自分の目で実物を見なければ何も解らなかったような時代を通っているということもあるように思います。本来それは今でも同じなんですけどね。評価が高いとか誰が良いと言っているとか、そんなことはどうでも良いことで。自分で探して考えて、失敗もしながら自分に合うものを見つけることで、自分の基準ができていったんだと思います」

    変わらないスタイルに辿り着くまでに、膨大な量から調べて掘っていく。その先に、自分の好きな世界観や価値観がわかってくる。平林さんの変わらない確立されたスタイルは、そういった時間の蓄積からなっているのです。

    PROFILE

    平林奈緒美

    東京都生まれ。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒業後、資生堂宣伝制作部に入社。ロンドンのデザインスタジオ〈MadeThought〉に出向を経て、2005年よりフリーランスで活動を始める。2011年から2014年まで雑誌『GINZA』のアートディレクションを担当。多くのアパレルブランドのビジュアルディレクションから、坂本龍一やサカナクションのCDジャケットデザインなど、幅広い分野で活動している。

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