自分らしく生きる、5つの要素
- 2025 JULY.14 Mon
TALK WITH…
自分らしく生きる、5つの要素
MIHO AOKI(OKOTOKOTO Designer)
ギャルリー・ヴィーが歩んできた40年の旅のなかで、たくさんの素敵な方々と出会うことができました。
変わらない自分らしさを見つけるための、ささやかなヒントや視点。それらは、私たちの周りにいる人々から、日々教わっていることでもあります。
「自分らしく生きる、5つの要素」では、ギャルリー・ヴィーがお世話になっている方々に、5つの質問を通して、自分らしさの源や大切にしているモノ・コトを伺いました。Q 今の自分にとって、”定番化した好きなかたち”、あるいは”愛着のわくかたち”はなんですか? 最近はタイトな服をあまり着なくなり、代わりにゆったりとしたシルエットに安心感を覚えるようになりました。特にリネン素材のオーバーサイズが大好きで、ここハワイの気候にもぴったりなその着心地の良さに、すっかり魅了されています。
リネンには“波動が高い”とも聞き、肌に触れるたびに心地よいエネルギーを感じられる気がします。さらに、草木染めの微妙な色合いもとても好みで、それらの色を組み合わせて着るコンビネーションを楽しんでいます。Q 人生に影響を与えた”旅”にまつわるエピソードはありますか? 旅は色々としてきましたが、中でも独身の頃、一人でさまざまな場所を旅して回った時期がありました。
当時は、数日間シンプルな場所に滞在したあとに、1日だけでも思いきって高級なホテルに泊まり、両方の空気感を味わうという旅のスタイルをよく楽しんでいたのを覚えています。
たとえばキューバでは、まだカストロが健在だった頃、国がつくった仕組みによって、観光客が地元の人の家に泊まれる制度がありました。
そこで暮らす人々の日常は思いがけないほど質素で、物質的なものがほとんどないため、100円ショップで売っているような安価な物でも、とても大切に大切に使われていました。
自分が普段何気なく持っているものが、どれほど恵まれたものかに気づかされた体験でした。試しに小さな物を差し上げたところ、心から喜んでもらえたことが、今も強く印象に残っています。
そうした暮らしに少しだけ混ざらせてもらうような体験は、同じ国の中にも本当にさまざまな“かたちの暮らし”があることを感じさせてくれる、貴重な時間でした。
そのあとには、ハバナにある当時キューバで最も高級とされていたホテルにも宿泊し、まったく異なる世界を体験しました。
また、ペルーではチチカカ湖のほとりに暮らす家族の家にホームステイをしたことがあります。
そこで出してもらった朝のインスタントコーヒーの味が、今でも忘れられないほど美味しかったのを覚えています。
チチカカ湖に住む人々は、まさに湖とともに生きていました。高地の澄んだ空気、静かな水面、そして素朴で色彩豊かな民族衣装。
家は土や藁でできていて、火を囲んで家族と食卓を囲む光景は、どこか懐かしく、温かさに満ちていました。観光客として訪れるというよりも、「そこにある暮らしに、そっと混ざらせてもらう」ような感覚。朝のコーヒーひとつとっても、彼らにとってはとても貴重な食材であり、それを分けてもらえることの意味の重さに、静かに胸を打たれました。
モロッコでは、ラクダに乗ってサハラ砂漠を進み、その夜は砂の上に張られたテントで眠ったことも、今でも鮮明に覚えています。昼と夜で表情を変える広大な砂漠の“かたち”、夜空に広がる満天の星、肌にじんわりとしみる冷え込み。自分の小ささと、自然の懐に包まれるような安心感とが混ざり合う、不思議な時間でした。
こうした旅のひとつひとつが、まるで世界を多角的に見る“目”を育ててくれたように思います。国や場所によって、日常のかたちも、人々の考え方も、時間の流れ方すらも違う。その違いに実際に触れることで、「当たり前」は決して一つではないという感覚が、自然と身についていきました。
この世界には、本当にさまざまな文化や価値観が共存していて、それぞれがその場所らしさをかたちづくっている――
そんな、ごく当たり前だけれど、日々の生活のなかではなかなか実感しにくいことを、旅がじんわりと教えてくれた気がしています。Q 最近の生活の中で、些細な幸せや喜びを感じた瞬間、素敵だなと思った仕草はありますか? 娘の卒業式の際に、心を込めてレイを作りました。
ここハワイでは、お祝いの時には庭に咲く花や草を摘んでレイを編み、大切な人に手渡す文化があります。その中でも「クラウンフラワー」と呼ばれる、とても可愛らしい花があると聞き、娘と一緒に、あるスーパーマーケットの裏手にある駐車場まで摘みに行きました。また、ご近所さんのお庭で咲いていた青いジェイドフラワーも、ありがたいことに分けていただき、お家に戻ってからたくさんのレイを手作りしました。Q 自分を整えたり、自分の軸を取り戻すために行っていることはありますか? 朝早く起きて、息子と一緒に海に入る時間が、私にとってとても大切なひとときです。毎日はできていませんが、できるようになれたら最高です。
太陽がまだ低く、空がほんのり明るくなる頃、海に入って体の邪気を落とすような感覚があり、それが私にはすごく必要だと感じています。
その時間帯にやってくるサーファーたちも、みんな穏やかな表情でニコニコと朝の挨拶を交わしてくれて、そのやりとりだけでも心がすっと軽くなるのを感じます。静かだけれど確かなこの朝のリズムが、体と心をリセットしてくれるような気がして、日常の中でもっと大切にしていきたい時間です。
そして何よりも、自分の軸を取り戻すために、とても大切な時間だと感じています。
Q 日々の生活の中で洋服を装うことについて、自分の中のルールや意識していること(コーディネートの選び方やその基準)はありますか? 日々の生活の中で洋服を装うとき、私なりに意識しているいくつかのルールがあります。まず、行く場所によってコーディネートを変えること。誰と会うか、どんな空間に身を置くかを想像しながら、服を選びます。
基本となるのは「快適であること」。身体がリラックスして過ごせることは、自分らしくいられるための第一歩だと思っています。そのうえで、服装によって少しでも自分に自信が持てるようなスタイリングを心がけています。
好みとしては、派手すぎず、でも品のある「クラッシー」な雰囲気が好きです。 流行を追いすぎるのではなく、どこかタイムレスで、シンプルだけれど上質さを感じさせるような装いに惹かれます。
「トレンド」よりも「自分にしっくりくること」を軸に、心地よく、その場に合ったスタイルを選ぶようにしています。PROFILE
青木美帆
Aloha aina(= love of the land)というハワイの言葉に心を動かされ、自然をリスペクトしたやり方で〈 OKOTOKOTO(オコトコト)〉をスタート。
ハワイの火山によって豊かになった土壌で育てられたアボガド、ターメリック、ワイルドインディゴ・・・草木染めの一部は自身の庭園で育てられた植物を用い、まるで魔法がかったような美しさを醸し出しています。