Side B - the essence of tomorrowland -
Special Interview
EDWIN × TOMORROWLAND
- 株式会社エドウイン メンズ企画
草野 豪
物静かな佇まいに秘めたジーンズへの熱意で、本質的な価値観を具現化していく次世代のホープ。ものづくりの真髄を極めんとするバランス感覚に定評がある。必要なのは、経験とセンス、知識とデータ
- ―縫製工場では効率化を極めた無駄のない工程によって、生地がジーンズになるまでの流れを見させていただきました。場所を移して訪れたこちらは、洗い加工を中心に行っている形でしょうか?
草野さん(以下、草野。敬称略):その通りです。〈EDWIN〉の自社工場として、常にあらゆるマーケットニーズを見据えたウォッシュ加工の研究開発をしている最前線の場所ですね。こちらでも工場長の佐々木が帯同してご説明をさせていただきます。
―広大な敷地の中には数多の機械やプラントが点在し、ジーンズを仕上げる場というよりは化学工場のような印象でした。MCDとはどういった意味なのでしょうか?
佐々木琢也さん(以下、佐々木。敬称略):ManufactureのM、CleaningのC、DevelopmentのDから取った名称になります。この3つは我らのコアとなる要素でして、最新の技術や長きに渡って蓄積したノウハウを駆使した革新を実践する拠点となっています。
―とんでもなく大きなサイズの洗濯機や乾燥機だけでなく、レーザー加工やオゾンフィニッシュといった最新鋭の設備が縦横無尽に配置されており見応え十分でした。
草野:ここ秋田のMCDでは後世に残していくべき技術や創意工夫があります。それと〈EDWIN〉が大事にしているものづくりスピリッツとチャレンジ精神を融合させてプロダクトを生み出しているといえます。工場内にある機器や設備は定期的にアップデートされ、進化の歩みを止めることはありません。
佐々木:平たく工程をなぞると、縫製工場で仕上がったジーンズは基本的にリジッドの生デニムですから、ここでウォッシュを行い、染色や脱色、各種加工を施していくことになります。昨今ではサスティナブルへの取り組みも強化し、技術開発と並走して水やエネルギー消費の削減だけでなく、排水も限りなく減らす活動を行っています。
草野:自然に恵まれた秋田に設立された工場ということもあり、有限な資源を可能な限り無駄なく循環できるように様々なアプローチを実践。2022年には従来の水使用量を95%削減することができました。
―何かを作るということは少なからず環境にインパクトを与えてしまいますからね…。
佐々木:環境への配慮だけでなく、従業員の負荷を減らすための努力も続けています。レーザー加工機の導入もその一環であるといえるでしょう。かつてはジーンズを手作業で擦って色落とすシェービングという手法が通常でしたが、レーザー技術の導入により、人的負担や効率化などの作業環境面が劇的に改善されました。
―実際に動いているレーザー加工機のスムーズな動きには驚きました。ジーンズをセットするとほぼ自動で自然な色落ちのベースができていたので。あの匙加減はどのように調整しているのでしょうか?
草野:モデル毎に入力したデータをレーザー照射によって表現する仕組みです。水や薬品、石などを使わずにアタリやヒゲ、ダメージも再現可能です。複雑なグラフィックも載せることができます。
佐々木:解れやクラッシュ加工もレーザー出力調整で可能になることで、今までは作業者が手作業で行っていた部分も代替できます。負荷や製品ブレの軽減はもちろん、安全性の向上にも繋がっています。
―裁断する時の型取りもそうでしたが、大事になってくるのは大本の設計図というか入力データになるのですね。
草野:縫製工場では、設計図通りに縫い上げるという数値化された要素が大事です。各部のサイズが変わってしまうと大変ですから。一方で加工工場では、ジーンズの色落ちに伴う陰影や馴染み具合などといった感覚値が勝負。これには「どの加工が最適か」をチョイスする経験値や審美眼と共に、「何を組み合わせればそうなるのか」を考えるセンスが必要になってきます。更に薬品知識や機械の扱いにも知見がないと、思い通りの1本にはなりません。
佐々木:生地特性も大きく関わってきます。今回のトゥモローランドさんのラインナップはワンウォッシュとユーズド加工の2種がありますが、綿100%のものとストレッチ混のモデルがあったので同じ色に揃えるのは難易度が高いものでした。後ほどお話させていただきますが、「レシピ」と呼ばれるジーンズの色落ちを表現する設計図は、こういった様々な要素を勘案して作られるものです。トライ&エラーを重ねる作業を経て量産化するためには、幅広い知識や経験則も大事になっていますね
いつもとは逆の工程で自然な色落ちを表現
- ―今回のコラボレーションを進めるに当たり、草野さんから「色の表現には苦労が多かった」という話もあったのですが、具体的にはどのようなところが大変だったのでしょう?
佐々木:古着のサンプルをお持ちいただき、それをベースに再現していく起点は従来の手法と同じなのですが、今回は微妙な部分を表現するためにいつもと逆の工程で進めることがベストと判断しました。簡単に言いますと、最初に色を全体的に落としてからアタリを出す流れです。
―通常はリジッドからアタリなどの部分を表現し、ブリーチで微調整していくということでしょうか?
佐々木:そうです。最後にブリーチで揃えていくのは量産ラインにおいては理にかなっているといえます。我々も慣れ親しんだ手法なので比較的イージーに回せる部分は大きいです。ただ今回は自然に馴染ませることのプライオリティが高かったので、フォローシェービングでそれを表現するようにしています。
草野:初期サンプルを上げさせていただいた時に、「ボタンフライ部分のアタリがやや強い」という修正依頼などを頂戴していましたので、トゥモローランドさんが求めるクオリティを実現するために決断しました。
―こちらが求めるものに対する引き出しの多さと、それを躊躇なく選ぶ決断力に感服します。この度はご面倒をおかけしました。
草野:とんでもないです。縫製工場でも申し上げましたが、その日の気温や湿度などでも仕上がりは左右されてしまいますし、洗い工程では水量や温度だけでなくph値なども注意深く見ています。職人が練り上げた「レシピ」を大量にブレなく生み出すためには必要な選択ですし、〈EDWIN〉のジーンズであれば当たり前のことなのです。
―ものづくりプライドの真髄を垣間見た気がします。やはり常に社会情勢に向き合いキャッチアップしていく柔軟さと、クライアントやカスタマーの要望に応えるトライ&エラーが根底にあるのが分かりました。
佐々木:「必要は発明の母」という言葉がありますが、イノベーションは数多くのトライやチャレンジがあってこそ。それでないと、「手で擦るのは大変だから軽石と一緒に洗ってみよう」みたいなアイディアが実現することはなかったかと思いますよ(笑)
草野:昔よりも環境への配慮に対して基準が上がっていることもありますので、加工処理後の放流水をろ過し再利用するレベルも非常に高くなっています。昨今、求められるメーカーとしての社会的義務および責任を果たすべく国内外の様々な監査基準をクリアし、オーディットを取得しています。こちらは従業員の労働環境なども厳しくチェックされるため、常に良化させるための努力を怠るわけにはいきません。
―ろ過された排水は魚が住めるほどにキレイになっていたのを目の当たりにしました。
佐々木:完成形のイメージを共有するコミュニケーション強化は日常的に行っていますが、環境への配慮といった意識も高まってきています。今回のコラボレーションや、こういった記事を通してジーンズ作りの現場のことを知っていただく機会になったら嬉しいですね。いつか環境対応の観点が更に厳しくなり、ストーンウォッシュなどの加工ができなくなるかも知れません。その時になって慌てることのないよう、先回りして新たなイノベーションを試していくことも大事だと捉えています。
草野:一口にストーンウォッシュと言っても、石の代わりにゴムボールやセラミック、酵素などで今も適材適所に使い分けています。コラボレーションによって新しい視点が入ることで、更に発展する契機になるのは間違いありません。今後もトゥモローランドさんとのタッグで切磋琢磨していけることを願っています。
ITEM
- ラインナップはスリムテーパード、レギュラーテーパード、ルーズストレートの3種類の展開。
腰回りが直線的かつ、股上を少しだけ浅めに設定することですっきりとした印象のモデルをベースとした3つのシルエット。