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TALK WITH / TAKAYUKI KIJIMA 「”自分に似合う帽子”が生まれるまで」

  • 2025 MAY.28 Wed

    TALK WITH…

    ”自分に似合う帽子”が生まれるまで

    TAKAYUKI KIJIMA(KIJIMA TAKAYUKI Designer)

    PHOTOGRAPHY. MAI KISE
    TEXT AND EDIT. AYUMI TAGUCHI (kontakt)

    ギャルリー・ヴィーが40年にわたって歩んできた旅を支えてくれているのは、モノづくりの現場で活躍するプロフェッショナルたち。
    「TALK WITH…」では、私たちが長年信頼を寄せてきた、様々なジャンルの作り手のもとを訪ね、お仕事や生活への向き合い方、大切にしている価値観、今のスタイルに辿り着いた経緯などを、じっくりとお聞きします。

    今回の対話相手は、ヘッドウェアブランド<KIJIMA TAKAYUKI>デザイナー・木島隆幸さん。帽子のクチュールをルーツにもち、ハンドメイドにこだわり続けて35年。オリジナルラインからブランドとのコラボレーションまで、毎シーズン100型以上もの帽子を生み出しています。そんな木島さんですが、実は「帽子をかぶることに苦手意識があった」と明かします。

    「帽子って、苦手に感じている人が多いと思うんです。多分、世の中の8割くらいの人がそうだと思っていて、実は僕自身がそのうちの一人。その”苦手”を解決するための手順をデザインや製造に取り入れています」

    帽子を苦手だと思う原因を、木島さんは「帽子の負の部分」と表現します。例えば「洗えない」「しまいにくい」「洋服に合わせづらい」など。そうしたハードルを払拭するための工夫が、デザインの随所に散りばめられていました。

    「どんな帽子でも、汗をかいて洗えなかったら、長く使えるとは思わないですよね。昔、気に入った帽子を新品で購入したときに、洋服とのバランスが取れないなと思ったことがあって。クタっとしたら洋服と合って可愛いかなと思い、いざ洗ってみたら、すごく縮んでしまったんです。そんな経験もあり、自分が作る多くの帽子は”洗えること”を前提にしています。最初からワンウォッシュがかかっていることで、こなれた感じがすでに出て、被った瞬間に馴染む。自宅で簡単に洗えたら長く愛用できますし、洗うたびに柔らかくなって、服との相性も変化していく。それでいいと思うんです」



    今回、ギャルリー・ヴィーのために作ったリネン混のハットにも、その思想がしっかりと息づいています。

    「ギャルリー・ヴィーさんにはシックな印象があったので、カジュアルな印象を与えるツバのステッチはあえて省きました。通常は芯地を入れて型をキープするんですが、それも省いて、ハリのある生地に裏からウレタンコーティングを施して、ステッチがなくても自立する形に。また、「旅」というテーマを意識して、持ち歩きしやすいようにループをつけています。このハットはツバの長さもあるので、普通に被ったらクラシックな雰囲気になりますが、例えば前の部分を少し上向きに折り曲げると、カジュアルに見えて馴染むんです。もちろん、洗えますし、丸められます。荷造りをするときにも、小さくなったら助かりますからね」

    「帽子といったら、木島さん」。そう言われる存在である木島さんの元には、日本の多くのアパレルブランドから「こんな帽子が作りたいんです」というラブコールがやみません。メンズ、レディース、カジュアル、モードまで、あらゆるジャンルの要望にピタッと正解を出す木島さんの、クリエイティブの第一歩とは?

    「大事なのは、”被っていてその人らしくいられるかどうか”。それが”似合う”ということだと思っています。まずは、着用する人を想像することが多いです。”リゾートへ行く人”を思い描いたら、その人の服装や荷造り、旅先での過ごし方まで想像します。最終の仕上がりをイメージすると、自ずと生地選びや機能がついてくる。ピンポイントで一人に絞るのではなく、”この枠の中の人たち”みたいな何通りものイメージを持つようにしています。いろんな人を何人か並べてみて、どれもいけそうだなってなったら、よしっ。という感じで」



    取材で訪れたアトリエでは、黙々と作業をする職人さんたちの姿が。木島さん自身もミシンの前で手を動かして帽子を作っています。中でも麦わら帽子用の「YAZIMA」というミシンは、35年連れ添う相棒のような存在。

    「ペーパーブレードと呼ばれる組紐を使うんですが、うちでは幅の細いものを使用するんです。細いほど、美しい曲線が出る。それを指の感覚だけで丸みを出していくので、組紐が細い分縫う技術が求められるんです。通常の帽子は、仕上げで糊を塗って型崩れを防止するんですが、うちではそれをやらない。僕らのポリシーでもある、”柔らかく仕上げる”ために、糊が必要ないくらい、ミリ単位でどんぴしゃりに縫い上げる。そうすると、柔らかくなり、丸めても元の形に綺麗に戻る。それは基本の縫い方から精密に仕上げているからなんです」

    最後に、木島さん自身が旅にいくときに愛用しているものと、職人目線で惹かれるハンドクラフトについて尋ねました。

    「本当に愛用しているものを持ってきたんですが、<パタゴニア>のナイロンのバッグと、<グラナイトギア>のパッカブルバッグです。もう15年くらい使っています。くたっとしていて、丸めてもかさばらない。綺麗な格好をしているときにこのバッグを持って、カジュアルダウンするのが自分の好みのスタイルなんです」

    「木彫りの熊は、職人・佐藤憲治さんの作品。沖縄に行ったときに偶然出会って、一目惚れでした。荒いカットなのに、ものすごく生命感がある。この大胆な表現ができるって、ちゃんとした技術がないとできないんですよ。簡単そうに見えるものほど、基本がしっかりしていないとできない。本当に素晴らしい才能がないとできないと思います」

    <KIJIMA TAKAYUKI>の帽子を被ったときに感じるのは、”エレガントなのに、どこか抜けがある”という絶妙なバランス。そして、どんなスタイルにもすっと馴染み、気負わずに使える実用性。そこには、帽子に苦手意識があったという木島さんならではの視点と、細部まで配慮された設計、そして職人技の積み重ねがありました。”気取らないこと”を大切にしている木島さんですが、それはストイックなポリシーではなく、「だって、それがいちばん楽なんですよ」というあくまでシンプルなスタンス。ファッションとしての美しさと、日常の中で本当に使えるものを両立させるための、確かな経験と哲学が込められています。

    PROFILE

    木島隆幸

    1990年から94年までの5年間、帽子デザイナーの平田暁夫氏に師事。<イッセイ ミヤケ>や<ヨウジヤマモト>、<コム デ ギャルソン>などの帽子製作に携わり、ヨーロッパのオートモードの技術を習得。自身の名を冠した<キジマ タカユキ>は、さまざまな事柄から伝わる時代の空気感を独自の視点とバランス感覚で取り入れ、「スタイリングで生きるデザイン」をコンセプトに置く。コレクションは、東京とパリで年2回発表。2017年からはハイエンドライン「HIGHLINE」をスタート。2021年からアップサイクルプロジェクト「answer It」を始動。

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