BRIDAL Special Interview〈youring〉
TOMORROWLANDの『BRIDAL RING ORDER』。
さまざまなゲストを迎え、魅力をお届けしていきます。
〈youring〉のデザイナー、中林雄大さんを迎え、TOMORROWLAND アクセサリーバイヤーの和田麻里子との対談でオーダージュエリーの魅力を掘り下げます。
- youring・デザイナー
@youring_jewelry
中林 雄大
株式会社youring代表取締役
PLASTICITY ブランドアドバイザー
1997年AHKAH創業時に入社
2008年 - 2018年 同社取締役チーフデザイナー
1993年 - 2003年 Contemporary jewery artist として世界各地で展覧会に出展
2021年6月 株式会社youring設立
- TOMORROWLAND バイヤー
和田麻里子
@mariko.wd
TOMORROWLANDのアクセサリーバイヤーを担当。 パッと目を引く華やかなスタイリングに合わせるアクセサリー遣いも他の人には真似できない唯一無二のバランス感覚。凛としながらも華やかさと大人な遊び心がチャームポイント。
Interview
ー 最初にジュエリーに興味を持ったきっかけはいつでしたか?
中林:子供の頃に母親のジュエリーボックスを見て綺麗だなと思ったのが最初の思い出です。ただその時はおもちゃのような感覚で見ていたので、ジュエリーの仕事に就くというところまでは全く想像していなかったです。高校生の時に本格的になにか作る仕事に就きたいなと思い始める一方で、田舎だったこともあり、周りと同じように、大学を卒業して教師になる道も親からは薦められていました。でも、やっぱり目的もなく、ぼんやりと大学へ進学するのは自分の中では腑に落ちなくて。とりあえず、美大やものづくりに関わる学校を目指すと決めた上で、さまざまな学科の中から「デザイン科では何をデザインするのだろう」と深く考えるようになり、そんな時に出会ったのが、街でふと目に止まったジョウロでした。
ー ジョウロですか…?
中林:当時80年代後半って、70年代に人々がモノを持ってなくてとりあえず買うという時代を経て、ある程度、人々がモノを揃えた状態にデザインがプラスされていくような時代でした。当時、ジョウロを見て「こういうデザインされる余地があるものがまだまだいっぱいあるかもしれない」と可能性を感じたんですよね。でも、最終的に学校見学で講師から教えてもらった「デザイン戦略」という本を通して、ようやく「デザイン」について自分の中で答えが出て、少しずつ具体的にデザインする対象について考えていきました。デザインは、ただ単に形を作るということだけじゃなくて、裏にあるストーリーも考えることで成立するものなんだなと。つまり、デザインも表現のひとつになり得るから、まだまだ未来があるんじゃないかと思ったんです。そこから街で目に映るアスファルト、ビルから想像する都市計画、車や広告から、生活に身近な物まで、社会が大きな意味でデザインされて出来ているということに気付かされました。
ー そこからジュエリーデザインへの決め手になったのは、何がきっかけだったのでしょう?
中林:通学路にあった時計店のショーウィンドウを見て、ジュエリーだったら自分の想いを形にできるかもとふと思いました。とはいえ、教育面では、ジュエリーは伝統技術を受け継ぐような文化保存的な方向が重要視されていたので、表現として向かい合えそうな専門学校ヒコ・みづのジュエリーカレッジに通うことにしました。在学中は、ひたすらにアートと宗教、表現学、哲学、歴史などを勉強して、コンテンポラリージュエリーを作っていて。卒業後から20年ほど〈AHKAH〉に勤める中で、徐々にそうした自分の哲学とお客様に対してのベストを考えるバランスがわかっていったような気がします。
和田:〈AHKAH〉に勤めている時から面識があったので、中林さんのキャラクターや考え方を知った上で、〈youring〉のリングも一眼みてすごく理解できる部分がありましたね。ジュエリーの中でも、ブライダルリングを選ばれたエピソードもロマンチックで好きです。
中林:ブライダルリングは、個人的にもすごく大事な存在なんですよね。独立と同時期に、パートナーと結婚したのですが、喧嘩をしたとしても同じ屋根の下に住んでいる以上、仲直りするタイミングっていうのはあって。そうした時に、僕は婚約指輪を渡して「また今後ともよろしくお願いします」と再プロポーズをします。なぜなら婚約指輪には、プロポーズした時の想いがmemoryとしてこもっていて、指輪を渡すたびに結婚した時の想いに立ち返ることができ、また新鮮な気持ちで歩き始めることができると思うのです。また、結婚指輪には一緒に歩んでいく時間をrecordしていくというようなそれぞれの意味があると考えています。近年では、婚約指輪を買われる方は少なく、代わりに時計を買う方もいらっしゃいますが、やっぱり物理的に時間が止まることなく、婚約指輪はずっと2人の間で流れる時間を大切にできる特別な存在だと思っています。
和田:何度聞いても素敵なエピソードですね。
中林:そうやって、僕自身がジュエリーに何度も助けられた経験があるので、ブランドを通して恩返ししているような感覚です。
和田:だからこそ、ブランドを立ち上げるために作られたストーリーではなく、嘘のない自然なストーリーが〈youring〉には一貫してあるなと感じます。ちょうどブランドを立ち上げるときに、見せてくださったプロトタイプのリングも、パートナーにプロポーズするためのデザインとして作られたものだったんですよね。〈youring〉の「ラ・フェリング」はそのリングが原型だと聞いた覚えがあります。
中林:「ラ・フェリング」は、フランス語で「妖精」と「完璧な女性」を意味する通り、妖精の羽から放たれる、キラキラとした煌めきを指輪として表現したエンゲージリングです。完璧な美しさを持つ花嫁にふさわしい、特別な指輪として作りました。
ー 今回、他に展開するリングの中で和田さんがお気に入りのものは?
和田:私は「エトワール」が好きですね。もちろん、「ラ・フェリング」を見た時に中林さんらしさがある象徴的なリングだなと思ったのですが、「エトワール」の一段と輝く光沢感も唯一無二のデザインだなと感じています。
中林:初めて伺ったので嬉しいですね。「エトワール」は、フランス語でパリのオペラ座のソリストだけが呼ばれる言葉の通り、世界で唯一の美しい人に捧げられるエンゲージリングとしてデザインしました。
和田さんがおっしゃってくださったリングの中の光沢感っていうのは、実は0.1ミリ単位の緻密なデザイン力が必要なところなんです。「エトワール」では横から見た時に、ダイヤを真ん中に置くと重たい印象になるので、ちょっとシェイプをかけていて。少し削ることで、光の通り道が増えるので陰影によるコントラストで現代的でありながらもより輝きが引き出せるようになるんですよね。
和田:反射や陰影も想像して造形していくんですね。
中林:そうですね。たまに「光のデザイナー」と言われることもあります。例えば、ダイヤモンドの間の金属があまり見えないように、サイズや位置が重なる設計することで光が連続して見せることもできて。本当に0.1ミリ単位で変わっていく世界なので、面倒くさい作業といえばそれまでなのですが、僕としては〈youring〉のデザインにおいて大事な部分だと思っています。
和田:最初にシミュレーションして決めていくものなのですか?
中林:そうですね。デザインと一緒に作った製図とともに職人さんにお願いするようにしています。6~7枚ほど描き直して完成させる中で、光の反射具合も想像しながら造形を考えていますね。
ー マリッジリングに対しては、どのようなデザインを意識しているのでしょうか?
中林:造形に対してのアプローチはさまざまですが、例えば「マンダリング」は、古くからヨーロッパで幸福の象徴として扱われてきたマンダリンオレンジを着想源にして、オレンジの実のようなデザインに仕上げました。実際に、結婚式で花嫁がマンダリンオレンジがついた枝を髪留めにさして登場することもあるらしいです。「エターナルノットリング」は、2本の線が途切れることなく、絡みながら1周しているデザインにふたりの人生が交差して永遠に結ばれることを表現しています。和田:「サハラリング」にも中林さんの個人的なストーリーから派生したコンセプトがありますよね。
中林:これはサハラ砂漠を実際に訪れてラクダに乗っていた時に、鉄の棒につかまって揺られている中で結婚指輪が曲がってしまって。でも面白いことに、曲がったことで付けている感覚を忘れるくらい付けやすくなったんですよね。この感覚をリングに落とし込めないかなと思って「サハラリング」を作っていきました。
〈youring〉の指輪はどれもそうした個人的な想いから始まって作っていますが、みなさんにとっても、自分のために付けているパーソナルなものであってほしいと思っていて。なので、婚約指輪だという意識よりも、自分が見て嬉しかったり、気分を上げるようなリングとして〈youring〉を手に取ってもらえたら嬉しいです。