Side B - Buyer’s insight vol.2 2025 FALL -
Decode 2025 FALL Season
TOMORROWLAND MENS Buyer’s Insight vol.2
前編では近年のファッションシーンを取り巻く変化や、
新たに芽吹き始めたムーブメントを中心にバイヤー川辺の所感を聞きました。
後編となる今回は、具体的なブランドを例に上げつつ、次シーズンに向けての匂いを語ってもらいます。
イメージを構築するピースを集める
- 前回、買い付けというよりも価値観を共有できるパートナーを探すという視点で動いているという話をしました。
つまり、ブランドバリューや他社の動向に左右されることなく、TOMORROWLANDとの文化的な親和性を感じ取れるのかを重要視しているといえるでしょう。トータルで展開するブランドもあれば、カテゴリー毎や単品だけになるものも混在します。共通しているのは、知的なクリエイティビティとクラフツマンシップが存在しているか。やはり目の肥えた顧客の方々には表層部だけでは見抜かれてしまうため、背景も含めて本質的な対話をするように心がけています。
結果的にオーダーが一段落した際に振り返ると、歴史やレガシーに敬意を払い新たな解釈をモダンに表現しているブランドやメーカーに惹かれることが多かったですね。脳内にあるディレクションテーマを完成形に寄せるために、様々な要素の欠片を構築的に集積して組み上げていく感覚かと思います。
〈EDWARD GREEN〉老舗シューメーカーによる今日的でリアルな提案
- まずご紹介したいのが〈EDWARD GREEN〉です。言わずと知れたイギリス靴の聖地であるノーサンプトンにて1890年に創業されたシューメーカーで、英国の気品を保ったスタイルを最高級レベルの素材と技術で提供し続ける老舗。
ブリティッシュの伝統を体現し続けているがゆえに、ある種の凝り固まったパブリックイメージがあるのですが、実は非常に柔軟で時代感を巧みに捉える意欲も強いことは意外と知られていません。今回は別注も依頼しており、アンライニングの柔らかい1足に仕上げました。育てる、と称されるほどに慣らすまでの苦行が当たり前だと思われがちな同社。その価値観も大切にしつつ、カジュアルにも視野を広げています。
見た目の重厚感は保ちながら、ドレス以外にもコーディネートできるものとなりました。デニムはもちろん、スウェットパンツにもフィットする汎用性は説得力も抜群。イギリス靴らしいロングノーズな意匠は、流行しつつあるフレアパンツとも好相性です。こちらはフランス発のメンズファッション誌として人気の「L'etiquette Magazine(エチケット マガジン)」などでも提案されているスタイルになります。
コンフォートでエフォートレスに寄せた近年の流れに迎合するのではなく、自らが大事にしてきた伝統に今のニーズを投影させる匙加減がさすがだと感じました。
〈JAN MACHENHAUER〉緻密な構築が生む、着る人との調和。
- 世界的にも評価が高いフランスのストール・ブランドである〈EPICE〉のクリエイティブディレクターとして立ち上げに参加し、現在もそのすべてのデザインを統括していることで知られるジャンによってデビューしたブランドが〈JAN MACHENHAUER〉。
北欧デンマークにて1981年から真摯なスタンスで創作活動を続けています。実用性に特化することで際立つワークウェアの機能美に、彼ならではのヨーロッパ的な視点というフィルターでモダンに魅せる手腕が突出しており、洗練された一枚に仕立てるバランス感覚には驚きを隠せません。
そのセンスだけでなく、クオリティの追求に対しても創意工夫を繰り返すストイックさで知られ、インドで作られるプロダクトの実現には、現地で継承されてきた熟練のテーラリング技術が不可欠。彼が求める高いレベルをクリアしていくことで、経験値と共に縫製技術が向上し、職人との理想的なサイクルを盤石にしています。また、普遍的なデザインをベースに高い質も備えていながら、比較的プライスが抑えられているのも嬉しいポイント。
着用することで完成する構築的な〈JAN MACHENHAUER〉は、気負いなく取り入れやすいという意味でも要注目です。
〈erEvan〉次世代のクリエイターが担う伝統と革新
- クリーンで肩ひじ張らないリゾート感を今の空気感で表現するのが〈erEvan〉。南仏サントロペの洒脱なスタイルをメインに、セルジュ・ゲンズブール、アラン・ドロン、マティスなど、多くの芸術家たちが育った土地の文化や服装からインスピレーションを受けたコレクションを展開するこちらもTOMORROWLANDとの親和性が高いブランドです。
デザイナーをはじめとするクリエイティブチームは20代がメインであるにも関わらず、歴史や技術に対する探究心が強く、エイジレスな魅力に溢れています。トラッドマインドをベースに、エレガンスやポップさを散りばめるスタンスには共感する部分が多く、認識のすり合わせもしやすかったですね。パリ五輪において衣装協力にも名を連ねた手腕は認められており、古き良き時代の遺産めいたファッション文法をモダンに咀嚼するセンスは抜群です。
渋谷店のみでの展開となりますが、懐古趣味に陥る方向性ではない説得力のあるアイテムが揃いました。ぜひ店頭で、その世界観を体感してみてください。
〈jean laumet〉無骨なワークウェアをモダンに昇華
- リサーチをする中で、その確かな空気感に惹かれていたのが〈jean laumet〉です。パリ出張の際に偶然にも顧客対応でパリに滞在していた彼にアポイントを取り、念願だったアトリエ訪問が叶いました。ここのラインナップはアメリカのラギッドなワークウェアのテイストをデザインソースに選びながらも、元々はテーラーだった経験を生かした類稀な技術力で抜群のフィット感を実現させています。
一見すると素材の重さや硬さがタフなムードを漂わせながらも、袖を通すと真逆の快適性を得られるギャップが印象的です。私と同世代ということもあってバックボーンや審美眼という面でシンクロする箇所が多く、真面目で質素な彼の人間性にも非常に好感を覚えました。生み出されるアイテムたちは無骨な素材感からは想像できないほどに着用時のラインが洗練され、都会的なムードを漂わせます。試行錯誤を繰り返すことで結実する、計算し尽くされたパターンやカッティングには驚くばかりです。ファッション史への実直な探究心を下敷きに、今の洗練された空気感をモダンに取り込む手腕には今後も目を離せません。
来日に対しても非常に前向きなため、日本での展開にも意欲を見せている彼と共に描く次の展開を、今から楽しみにしています。
〈Brady〉スタイルを完成させる別注バッグ
- センターピースのアイテムたちを彩る名脇役として、バッグにもこだわりを込めました。依頼したのは1887年にイングランドのバーミンガムで創業され、実用性を追求したガンバッグからスタートし、ハンティングやフィッシング用に様々なプロダクトをスポーツシーンに提供し続ける〈Brady〉。
オマーン君主やウェストミンスター公爵のような王族やセレブリティの為に作成された過去からも分かるように、ラギッドな機能美の中にも洗練された空気感を匂わす唯一無二の存在です。ベースに選んだのは「LEVEN」と呼ばれるバケットバッグで、非常にシンプルなデザインが特徴の名品となっています。
このモデルを普段使いに最適な大きさにすべくサイズダウンし、同社の特徴的な素材であるドリルドロップ生地の表情に奥行きをもたせるため、通常とは逆の裏地使いで新たな魅力を引き出しています。英国らしいブライドルレザーを採用したベルトは、長さを調整することで肩掛け・手持ちのどちらにも対応可能。実用面においても抜かりはありません。
繰り返しになりますが、ニューイングランドの匂いが今季ディレクションにおける軸の1つ。そこに自然と馴染む佇まいも選定理由のひとつです。
〈Harry Mundy〉巧みな手腕で、二律背反する要素をまとめる
- 最後に紹介するのは、今シーズンにおける思想性の最深部ともいえる存在、〈Harry Mundy〉です。2023 年にビスポークの仕立屋として自身の名を冠して始動し、ブリティッシュテーラー本流の系譜を引き継ぎつつ、カウンターカルチャーとしてのそれも同時に感じさせてくれる稀有な存在です。
かつてサヴィル・ロウでビートルズのスーツを仕立てていたトミー・ナッターの流れを汲むとも言われ、〈Vivienne Westwood〉でメンズウェアデザインマネージャーを努めた経験からも、アバンギャルドでパンクなマインドも持ち合わせている事が感じ取れます。こだわりの強さは創作にも現れており、ロンドンにあるアトリエにて一人で縫い上げるために大量生産は不可能。使用される生地は英国内にあるデッドストックのものを中心に、小規模なミルやマーチャントから調達しています。連綿と受け継がれてきた英国のカルチャーに、モダンで新たな解釈を入れ込むセンスは随一ではないでしょうか。服に向き合う真摯な姿勢と、そこに内包された意義深い思想が〈Harry Mundy〉の真骨頂と言っても過言ではありません。
伝統的な職人技と現代的なデザイン言語、高尚さを匂わす意匠と、デイリーに着倒せるフィット感、そして英国らしい堅牢感とアノニマスな普遍性。一見すると相反するこれらの要素が高次元で両立し、見事なバランスを成しているのです。
- ご紹介してきたブランド以外にも、魅力的なブランドやアイテムを数多くご用意しています。
トゥモローランドの標榜するエレガントな世界観と、今日的に最適な編集を施したスタイリング提案をお愉しみいただけるかと思います。ぜひ、ご期待ください。