WARDROBE STORIES manipuri for Ballsey
- 思い出が宿るお気に入りの一着は
纏うだけで自信をくれる特別な存在
わたしたちを美しく魅せるだけでなく
日々の心に寄り添い
生き方や価値観をも映し出す
クリス-ウェブ 佳子さんが出合った
ストーリーを紡ぐ一着をご紹介します
vol.02 Ballsey WHITE LINE
manipuri for Ballsey
- 波と記憶の狭間に漂う -
written by Yoshiko Kris-webb
不確かな春のぬくもりに包まれたくて、近郊の海へ車を走らせました。一条の白線を描きながら穏やかに打ち寄せる波。優しく頬をなでる生温かな風。そして黄砂と花粉で黄色く霞んだ空の向こうに、昨夏訪れたマラケシュの景色を思い出しました。海の向こうを遠望していると、幸せな思い出の記憶が波のように押し寄せてきます。
無造作に伸ばしすぎた髪が風に暴れるものだから、持ってきていたスカーフでひとまとめに。偶然にもスカーフに描かれているのは、これまた遠いマラケシュの空を追憶させる気球群。キャミソールとワイドパンツは、その気球モチーフをベースにした〈Ballsey〉と〈manipuri〉のダブルネームのオリジナルプリントです。手作業で一色ずつ丁寧に染めていく手捺染という技法で仕上げられているため、細密な柄や輪郭がはっきりと浮かび上がります。
姉犬・フェイ(ポンスキー)にとっては二度目の、妹犬・ルー(豆柴)にとっては初めての海。誰かの”初めて”に立ち会うというのは、いつだって自分のこと以上にドキドキします。期待よりも不安と心配が先立ってしまうのです。そんな私の老婆心をよそに、臆することなく波際に向かっていく二匹。泳ぐには冷たすぎる海水に足を浸す羽目になりました。
母曰く、私の海初体験は波と涙でグシャグシャだったそう。その証拠に、浜辺に座って泣きじゃくる私の写真が数枚、皮表紙の分厚い家族アルバムに貼り込まれています。それらの写真は経年劣化とともにセピア色化していて、どこかこの日の空の色と似ています。夕焼けでさらに黄色味を増したこの日の空と。
泣きっ面の私とそんな私を抱きかかえる母。そしてその光景を写真に収めるためにシャッターを切り続けたであろう父。思い出せるはずもない幸せな記憶が波のように押し寄せては、たなびく波間に消えていきました。こんな風にときどきは海に来て、ノスタルジーを感じる時間が私にはとても癒しになっています。
思い返せば1995年頃まで、私が思春期を迎える頃までが家族写真の最盛期でした。父が撮った家族写真のほとんどは私と三つ下の妹が主人公で、私たちのたくさんの”初めて”が収められています。でも私が一番心惹かれるのは、ときどきひとりで写真に映る、年代物のファッション誌に負けないくらいオシャレな母。今の私よりも少し若い母の姿です。
忙しく働く母の、上質でトレンドを取り入れた華やかなワードローブが大好きでした。パワーショルダーのツイードジャケットや毛皮のコート。ハイウエストのテーパードパンツやタイトスカート。そして、驚くほどたくさんの色鮮やかなスカーフ。首元に巻いたり、襟元に沿わせたり、ブローチを使ってアレンジしたりと、母は魔法のようにスカーフをあしらっていました。
幼いながらに憧れた母のスカーフのあしらい方。それがどんな風にだったかは、これまた思い出せない幸せな記憶です。今年は久しぶりに、そして本格的にスカーフブームが到来するので、今度母に会ったときに尋ねようと思います。
「お母さん、スカーフってどうやって巻くの?」って。
Camisole / ¥19,800(tax in)>>>BUY
Pants / ¥39,600(tax in)>>>BUY
Scarf / ¥22,000(tax in)*Mid-April Delivery
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クリス-ウェブ 佳子
@tokyodame
モデル・コラムニスト。
4年半にわたるニューヨーク生活で養った国際感覚と、バイヤーやPRなど幅広い職業経験で培われた独自のセンスが話題となり、2011年より人気雑誌「VERY」の専属モデルに抜擢。現在は様々な媒体で活動。
ストレートな物言いと広い見識で、トークショーやイベント、空間、商品プロデュースの分野でも才覚を発揮する。 2017年にエッセイ集「考える女(ひと)」(光文社刊)、2018年7月にトラベル本「TRIP with KIDS こありっぷ」(講談社刊)を発行。二女の母。
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