SUITS & STORY 「モノ語りのあるスーツ」
SUITS & STORY 「モノ語りのあるスーツ」
SAVILIAN MODEL for TOMORROWLAND PILGRIM
英国から北米に渡った清教徒を指す〈PILGRIM〉という言葉は、比喩的に「人生の旅人」の意味でも使われる。
17世紀の初め、メイフラワー号に乗り込んだ清教徒が求めたのは、 信仰の自由だけではなかっただろう。
「自分の人生を自分らしく生きたい」。彼らが抱いていたこの思いは、いまも、私たちの胸に響く。
着こなしのルールにとらわれたり、流行に踊らされたりすることなく、自分らしく装いたい。
ビジネスでは英国調のスーツ、週末はアメリカンカジュアル。 若いころからなじんできたそんな着こなしに、あえて距離をとってみるのもいい。
いま一度、こころ躍る人生を送るために、ヨーロッパでもアメリカ大陸でもない、「装いの新天地=TOMORROWLAND」を目指そうではないか。
旅、映画、音楽、アート、クルマ、食や酒。愛するもののストーリーを語りながら、自分の人生を自分らしく生きる。幸せの風景は、モノ語りのあるスーツと共にやって来る。
スーツには、静謐な腕時計を着ける。いま欲しいのは「羨望」ではなく「尊敬」

高級腕時計の人気が長く続いている。男が着ける唯一のアクセサリーである腕時計が注目されるのは、当然と言えば当然。ただ、ここに来て潮目が変わりつつある。 「必要以上に派手で、むやみに高額な腕時計は、もはや求められていない」。代わって台頭しているのは、「上品で洗練された腕時計だ」という。 発言の主は、世界に数十人しかいない独立時計師を束ねるアカデミーに属する日本人の時計師。ブランドに所属せず、デザイン、パーツ作り、組み立て、研磨などを全て一人で行っている。 ほんとうの価値を知る者の発言には、重みがある。
かつては複雑機構のデカ厚時計で「威張りを利かす」と言っていたのが、今となっては気恥ずかしい。 求められているのは、時分秒の3針だけを持つシンプルな顔つきの腕時計。サイズも小ぶりで薄型のほうが、スーツの袖に美しく収まる。
クワイエットラグジュアリー。 ファッションでも、ロゴを前面に押し出したこれ見よがしなデザインを着て羨望されるのを望むのではなく、質のいい素材にこだわる「静謐(せいひつ)な贅沢」が注目されている。 スーツであれば、なおさらだ。まずは、知性を感じさせるネイビーが第一選択となる。世界でも有数の生地産地、イタリアのビエラ地区の名門〈チェルッティ〉によるストライプ柄が、 静かに主張する。ニノ・チェルッティ氏が存命だった1970年代のアーカイブから引用された柄を、現代のクオリティでよみがえらせた一着。こういったスーツを着る男こそが、いま尊敬を集める。
ジャケットのシルエットは、英国調がベース。構築的な肩と胸元から、高めのウエスト位置でキュッと絞り、裾は長めに広がる。ドレッシーで抑揚が利いたこのシルエットは、 甲冑(かっちゅう)をまとっていた英国貴族の好みが反映されたとも言われる。
スーツの型紙を手がけたのは、英国のテーラリング技術を熟知する日本人パタンナー。 本流を理解したうえで、引き算によるモダンな表情を実現している。胸や背中の立体感は保ちつつ、前身頃はほどよいゆとりを持たせた設計。 コンフォタブルなスーツを着慣れた人でも、快適に着られるはずだ。
イタリアの生地、英国のシルエット、日本人向けの着心地。スーツの文化をミックスしながら、新しいスタイルを作る。 これこそが〈PILGRIM〉のアイデンティティである。
SUIT / TOMORROWLAND PILGRIM / ¥198,000ジャケットを着る理由。楽をするのではなく、楽しく生きたいから

スーツやジャケットを着るのは、ビジネスシーンだけとは限らない。昨年の秋に89歳で亡くなったロバート・レッドフォードは、スクリーンでそれを証明してみせた名優である。 夜ごとパーティを繰り広げる『華麗なるギャツビー』も、『大統領の陰謀』を追う新聞記者も、彼が演じる男のスーツ姿にはリアリティがあった。
俳優引退作となった『さらば愛しきアウトロー』は、彼自身の役者人生へのオマージュと言っていい。最初にスクリーンに映し出される「This story is mostly true. この物語は、 ほとんど実話である」の文字は、1969年の出世作『明日に向かって撃て!』の冒頭に映し出される文字と同じ。最後の作品でも、ロバート・レッドフォードはスーツ姿に帽子をきちんとかぶり、 ピストルを忍ばせて銀行に向かう老人を演じた。『明日に向かって撃て!』の若き強盗サンダンス・キッドが、ジャケット姿に帽子だったことを思い起こさせるように。
何度も捕まって、それでもアウトローの人生を続ける老いた強盗のセリフがいかしている。「楽に生きるなんてどうでもいい。楽しく生きたい」。 ハリウッドに迎合せず、生涯を通じてインディペンデント映画の若い才能を応援し続けたロバート・レッドフォード。メインストリームに同調したほうが楽だったとしても、 信じる道を行く楽しさを全うした彼自身の遺言のようにも思えてくる。
コンフォタブル。ここ数年、そんな売り文句で購入した楽な着心地のジャケットばかりを着ていたように思う。ならば今シーズンは、英国調の特徴であるチェンジポケットを持つカッチリとしたジャケットやブレザーを着てみよう。 オープンカラーのシャツにスカーフを巻いてみたり、ポロニットのインナーにボーダーTシャツを合わせてみたり。コーディネート次第で、心がワクワクしてくる。 体が楽であるよりも、心が楽しい着こなしを、いま選ぶ。
2つのジャケットに使われているシルク・ウール&モヘヤは、イタリアのゼニアグループ傘下の<ノヴァラ>社の素材。 もともと得意としていたシルクにモヘヤとウールをブレンドして、軽さや柔らかさに強度とハリも加えて、現代的な着用感を実現している。
ベージュのジャケットには水牛ボタン、ネイビーブレザーにはメタルボタンを、それぞれに採用。重さで下を向きがちなメタルボタンは、台座を工夫することでしっかりと立ち上がらせている。 さらには、裏地に日本有数の産地で織ったジャカード素材が使われているのもうれしい。このように洋服のパーツひとつひとつにまで職人の力を存分に活用したジャケットやスーツは、 〈PILGRIM〉を選んだときの密かな自尊心を支えている。
JACKET / TOMORROWLAND PILGRIM ¥176,000山の稜線、街の陰影。目に焼き付けた風景が、人生になる

クルマを走らせていて、フロントガラス越しに、あるいはバックミラーに写る風景に、心を動かされる瞬間がある。進み行く未来にも、走ってきた過去の中にも、感動はふと見つかるものだ。走ったり、止まったり、振り返ったり、それは人生にも似ている。
最初にアメリカを旅したときに、ニューメキシコ州のアルバカーキからサンタフェまでクルマを走らせた。前を見ても後ろを見ても、どこまでも砂漠が続く、アメリカ中西部の長く真っすぐな道。 遠く先に揺れるように見えてきたのが、町なのか蜃気楼なのか、知らぬ場所を行く恍惚(こうこつ)と不安が相半ばした。走り続けて焦点が合ってきた視界に像を結んだのは、砂の壁で作られた家が立つ町並。 この地で創作を続けた女性芸術家ジョージア・オキーフの絵で見たことのある、アドービ造りの美しい家だ。旅程が生んだ偶然とはいえ、初めてのアメリカ旅行が、 200年以上前に英国から新大陸に渡って、西へ西へと旅を続けた開拓者たちの追体験のようであったと、記憶に鮮やかに残っている。
ハンディクラフト。サンタフェでは、ネイティブアメリカンが作るジュエリーや手織りウールのラグで作られたオルテガのベストに魅せられた。 いま私たちが着るドレスウエアもまた、その工程の多くが、技術と経験を持つ職人の手で作られている。〈PILGRIM〉のスーツやジャケットを手がけるのは、高い技術力で知られる日本のファクトリー。 芯地をしつけ糸で留め合わせていくときの技が、特に秀逸だ。生地に立体感を持たせながら、身体に吸い付くような着心地と両立させていく。 さらには、首の周りに沿う形の襟をシワなく仕上げるために、アイロンと機械プレスを3回繰り返して曲げていく。これなら、運転するときに着用しても、快適な着心地と美しいシルエットのどちらも失うことはない。
旅に出るときは、ジャケットに限る。合わせるコーディネート次第で、旅先の街を散策するときにも、かしこまったレストランでディナーをするときにも活用できるからだ。 もちろんビジネスのときにも、もっとジャケットを着用してみよう。旅も食も、仕事でさえも、人生を紡いでいく楽しみのひとつであることに変わりはないのだから。
〈PILGRIM〉では、スーツやジャケットは嗜好品であると考えている。「仕事着だから」と言い訳をして、自分の好みを封じてアイテムを選ぶのはもうやめよう。 ブラウンやバーガンディの同系色を重ねていく大人っぽいコーディネートも、ホワイトとブラックのモノトーンでシンプルにまとめるのも自由自在。 迷ったら、リアル店舗に足を運んで、ショップスタッフに相談して、パーソナルスタイリストになってもらうのもいいだろう。
写真の2体のジャケットは、いずれも〈ラニフィーチョ・ローニャ〉の生地を採用。老舗がひしめくイタリアのビエラ地区の中では比較的新しいメーカーだ。 モダンさとヴィンテージっぽさを併せ持つ色やデザインが得意で、世界中のテーラーから信頼を集めている。
JACKET(LEFT) /TOMORROWLAND PILGRIM / ¥143,000
JACKET(RIGHT) /TOMORROWLAND PILGRIM / ¥143,000
TROUSERS / TOMORROWLAND PILGRIM / ¥49,500古い、新しい。そんな決めつけを捨てて、自由にスーツを着る

若かりしころには古いヨーロッパ映画を観るために、したり顔で名画座やミニシアターに通ったものだ。歩いたこともない石畳の街に思いをはせ、生きたことのない時代の文化を浴びる。 動画配信などなかったころ、それこそが世界を知る方法だった。
ヌーベルバーグのフランス人監督ジャン・リュック・ゴダールのスピード感にやられたり、ネオレラリズモの薫陶を受けたルキノ・ヴィスコンティやフェデリコ・フェリーニといった イタリア監督が描く映像美に浸ったり。ただ、彼らの作品を数多く観ていたころには、映画の意味を問いすぎるがあまり、正直に言えば、難解に感じるときも多かった。
数十年の時を経て、ヴィスコンティとフェリーニの映画をまとめて観る機会に恵まれた。自分自身が年を重ねたせいか、現実が映画よりも難解になったせいか、 若いときのように眉間にシワを寄せてスクリーンをにらんだりせず、短いとは言えない上映時間でもリラックスして映画館での鑑賞を楽しんだ。例えば、1960年のヴィスコンティ作品『若者のすべて』。 あるいは、1953年のフェリーニ作品『青春群像』。いずれも、バチッとスーツを着た若者たちが、イタリアの街を歩き、酒を飲み、ケンカをしたり、恋をしたり。 まるで、日活や東映が撮影したかつての邦画のような単純なストーリーであったと驚かされた。
「イタリア人は正しさよりも幸せを選ぶ」。何度もイタリアを取材した女性誌の編集者がつぶやいた言葉が、ストンと胸に落ちる。いま着用したいのは、人生を幸せに過ごすためのスーツだ。 顔を晴れやかに見せるラペルの表情、男らしさをモノ語る抑揚のある背中のシルエット。構築的でありながら、やや丸みを持たせた柔らかい肩からは、余裕のある男だけが持つ包容力のオーラが立ちのぼってくる。
『若者のすべて』でボクサーを演じた若き日のアラン・ドロンの哀愁に満ちた表情は、いま観てもハッとさせられる。作品のなかで、彼とその兄弟たちはいつもスーツを着ている。 朝も昼も夜も、順調な時にも過酷な時にも。スーツは、仕事のユニフォームではなく、人生を前に進めていくための気持ちを上げる装いであると、改めて宣言したいと思う。
3体のスーツに使われているのは、〈エルメネジルドゼニア〉が2023年に発表した素材。南極にほど近いフォークランド諸島で採れたハリコシのある希少な羊毛を原料とした、タテヨコ48番双糸で織りあげられている。 同社のスーツ地としてはいちばん太い番手なので、仕立て映えの良さと、高い防シワ性や耐久性が両立したスーツとなった。
いずれのパンツにも、サイドアジャスターを採用。昔からあるクラシックなディテールではあるが、ウエストのサイズ調整で、コンフォタブルな着心地を支えている。 男たちがスーツに求める美しさや機能は、案外、いまもむかしもそれほど変わることがない。
SUIT / TOMORROWLAND PILGRIM / ¥198,000[展開店舗]
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イラスト/早乙女道治 編集と文/山本晃弘(ヤマカン)




