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about th products Vol.1

  • INTERVIEW

    about th products vol.1

  • 今回はアントワープ王立美術アカデミーを首席で卒業し、

    ジェンダーレスなコレクションを展開する〈th products(ティーエイチプロダクツ)〉のデザイナーである堀内太郎氏にインタビュー。

    ご本人が洋服に興味を持ったきっかけやアントワープでの生活、最新コレクションのアイテム解説など、貴重なお話を聞かせていただきました。

  • ーまずはじめにご自身の経歴などお聞きしていきたいのですが、10代の頃に渡英していますよね。どういった経緯だったのでしょうか?
  • 14歳の頃に両親から留学したらどうかと言われ、渡英しました。

    両親は美術の仕事をしており、幼少の頃から自宅には外国の友人がよく泊まることも多く、

    彼らとのコミュケーションを取りたいという考えもあってまずは語学留学として留学しました。

    中学までは日本で、高校は行かずにイギリスで大検を取得して、当初は興味のあった絵などを学ぶ為に美術大学に行きました。

  • ーその頃に洋服に興味を持ち始めたのですか?
  • 東京にいた中学時代は全く興味はありませんでした。

    どちらかというと音楽には興味はあって、服に興味を持ち始めたのは美術を学び始めた17歳頃からですね。

    その頃、夏休みなどで日本へ帰るたびに日本の“relax”や、”STUDIO VOICE”などの雑誌を買い漁って情報を持って帰ってきていました。

    当時、日本は裏原ブームでイギリスにも裏原などのカルチャーが入ってきていて、“GIMME FIVE”や”GOODENOUGH UK”、裏原の”BATHING APE”などの洋服がピカデリーのSOHOなどのお店で一緒に売り始めていました。


     “HIDE OUT”と言う名前の”Fraser Cooke(フレイザー・クック)”がロンドンで回していたお店で、

    横や後ろに”NIGO”さんもお店を開いていたりと2000年頃の当時は海外にいながら東京を体感した様に思います。

    “SILAS”もロンドン発のスケーターブランドで流行っている時代で、そのチームと遊ぶ機会があったりもして、ストリートファッションもモードも同時期にごちゃ混ぜの様な中で興味を持ち始めました。

    イギリスの美術大学の1年生では様々な学科で学ぶのですが、その中の一つにファッションがあったのも影響しましたね。

  • ーイギリスにも有名な大学がありますが、アントワープ王立美術アカデミーを選んだ理由は?
  • イギリスのアート大学でファッションを学問として学んでいく中でマルジェラが好きになっていきました。

    当時いた大学はキングストンと言う大学でファッション学科は有名な大学ではあったのですが、どちらかと言うとより大きなメゾン的なメガブランドで働く様なデザイナーを輩出している大学でした。

    私はより小さくてもアート的視点が強く感じられたマルジェラが学んだ場所に行ってみたいと考えて、先生に相談したり、当時まだ始まったばかりのインターネットを使って色々と調べ、アントワープが有名な大学だと言う事も知らないままに受験をしました。 


    2002年当時アカデミーにはヴェトモン/バレンシアガのデムナ・ヴァザリアや、ミキオサカベの三樹郎くん、アキラナカの中さんなど多くの面白い生徒が一年生にいました。

    実は私も彼らと同じ年に受験をしに行ったんですが、ドローイングや面接等を2日間に分けて行う入学試験の受験日を1日間違ってしまい(笑)2日目に行ってしまったんです。

    当然なのですが学校側には来年戻って来いと言われキングストンに戻り1年間ファッションの勉強をして、翌年の受験に無事受かることができて、2003年から通うことになりました。

  • ー洋服好きやファッション好きな人であれば名前を知っている人も多いと思いますが、実際のアントワープはどのような場所でしょうか。
  • アントワープは凄く小さな街で、“Haider Ackermann(ハイダー・アッカーマン)”や“Raf Simons(ラフ・シモンズ)”などの有名デザイナーが自転車で行き来してたり、レストランで後ろを見たら”Dries Van Noten(ドリス・ヴァン・ノッテン)がいたりと感覚的には中目黒~代官山で街のほとんどが完結してる様な本当に小さな街なんです(笑)。

    行く本屋は2,3件程度ですし、生地屋も近場には1つしかないんです。

  • ー都会的な場所とは違うんですね。
  • 多くの著名なデザイナーを輩出してるのを不思議に思うくらいの田舎町です。。。

    プロのデザイナーと距離感なく身近に触れ合うことができるので、それは本当に行って良かったと思う一つです。

    ロンドンやパリで突然著名なデザイナーに会うなんて事は珍しいですからね。

    在学中にアントワープで発刊された”A MAGAZINE” という雑誌では”Martin Margiela(マルタン・マルジェラ)”が監修する号があったのですが、そのMTGの為にアカデミーを訪れたマルジェラ本人にも一度会う事ができましたし、純粋にデザイナーが遠い存在ではなく身近に感じれた事は嬉しい事でした。

  • ー他の有名な学校に比べて特別感がありますよね。
  • 本当に小さい街と言うのが一番の特徴かもしれません。

    弊社のスタッフの一人は2002年頃から数年間ラフ・シモンズの元で働いてたのですが、当時はSNSも無い時代でしたし彼のアトリエに何度か通ってドアをノックして仕事をもらったりする様なことができました。

    今でもアントワープのデザイナー達は”スノッブ”では無い何処かHOME感のある優しさを感じさせる人が多いと感じます。

    今でも〈th products〉の多くのビジュアルはアントワープで撮影されていますし、いつも繰り返し戻りたくなる第2の故郷の様な場所です。

  • ー卒業後に日本へ戻ってからレディスウェアの〈TARO HORIUCHI〉をスタート。
    そして現在〈th products〉をスタートして3年目ですが、以前からメンズウェアを作る構想はあったのでしょうか。
  • 帰国後の2010年からレディースウェアの製作をしていたのですが、2017年頃からモヤモヤしたものがありました。

    レディースはメンズと比べてトレンドも強く変化すると感じますし、デザイナー自体の流行も移り変わっていく。

    自分は男性なので当時作った洋服を着られず、ずっと妄想の世界の中で作り続けると言う部分や流動性の高いトレンドにも違和感がありました。

    毎シーズン新しく作るものが早い速度の中で消費されることに違和感があり、より強く自身の考えや思想を反映し表現されたものを作りたいと考えて2018年に〈th products〉を立ち上げました。

  • ー特徴としてミニマルな洋服が多いですが、シンプルだからこそこだわっている部分はありますか?
  • シンプルであるがゆえに、その瞬間には見えない部分に特にこだわっています。

    例えば〈th products〉で使用するウールギャバジンでは、一度ではなく2度染める事でより黒の濃度を高め、自分が考える黒を出した上に、特殊なコーティングを加える事でハリ感と硬さを持たせる等、何度もの試行錯誤を行いながら定番となる素材を一つづつ開発しています。

    ボタン穴一つ一つの距離感についてなども、4つの穴を1ミリ詰めることでシャープな印象にはなる代わりに、手で付けることになるのでコストアップになるがどちらが良いか永遠に考えていたりと。。。(笑)

    メンズの服はレディースと比べて制約の多い中で作られていて、ミニマルな〈th products〉ではディテールも削ぎ落としているからこそ自然と一つひとつの要素が重要になってきます。

  • ーその中で最も重要視しているものはなんでしょうか。
  • 普遍性と言う事については頻繁に考えています。

    デザインや素材や縫製などの要素ももちろん重要ですが、総体的な意味での普遍性はどの様にして得られるのか。

    父が古代美術を扱う仕事をしている影響もありますが、数千年前の古代美術がどういう意図で作られたかは分からないにも関わらず当時の人が美しいと思って作ったものを、今現代の人が美術館で見て美しいと感じるのはそこに普遍性があるからだと考えていて、そういった時代を超えられるものを少しでも考えながら作りたいと考えています。

    普通であり、普通では無いもの。


    近年ではサスティナブルもよく話題になる言葉だと思うのですが、私としては良い服を作ればいいと考えています。

    流動性の高いものを作って消費する事から、環境破壊といった流れになってしまう。

    タンパク質を原料とした新しい素材である“Spiber(スパイバー)”などの研究にはとても興味があるし、人間の進化として素晴らしい物だとおもっています。

    ただそういった研究は私たちの規模では出来ない事なので、自分たちなりの努力はしながらも消費されない”良い服“を作りたいと考えています。


    90年代中盤に入るまでは環境問題はファッション業界の中心で大きく議題にはなっておらず、2000年代初頭の大量に安価で安く消費するファストファッションが世界的に巨大化した事が大きく影響していると思います。

    当時はファッション自体が今よりもマニアックなものでしたが、ファストファッションがよい意味でも、悪い意味でも拡大してファッションを気軽に楽しむ人が増えたことで様々な部分で変化が現れ始めたように感じています。

  • 私自身、最近購入しているのはデザイナーズやミリタリーの古着ばかりです。

    例えば所有している“ヨウジ(Yohji Yamamoto)”の80年代初期のジャケットも削ぎ落とされたデザインで、一見すると普通なんだけどどこか違うというか。彼の言うノマド的な人々や、民族服などからインスパイアされたものだからでしょうか?

    半世紀近く経ったものを、現代のたくさんの服に囲まれて生きる自分が良い、着たい服だと思い購入することは古代美術と同じ様な普遍性を持ったまさに時間を越える服だと感じさせます。

    〈th products〉では真新しい斬新な物ではなく過去の服からの “血脈”を感じられる様な、普遍性の感じられる“現代”の為の服を作りたいとおもっています。

  • ー続いては21SSコレクションの中から、アイテム解説を聞いていきたいと思います。早速ですが、このセットアップからお願いします。
  • このセットアップは今季初めて製作したスポーツタイプのスーツで糸を選ぶ所から製作しました。

    ナイロン糸をベースに作られているストレッチ素材なのですが、反発性もありとてもシワになりにくい。

    1mあたり80グラム程しかない軽量素材で、ウールだと3.5~4倍くらい重さがするんで異様に軽く感じると思います。

    反発性とハリ感もありシルエットも出るのが特徴ですね。

  • ウールギャバの素材やスーチングが好きでこだわって作っていますが、どうしても使っていると多少シワになる。

    それを解決するために今回作ったのがこの素材で、撥水性もあり洗濯も可能で非常に気に入っていて

    継続して次のシーズンも使用する予定です。

    パンツもテーラードのディテールは残しつつもスポーティーなデザインで、後ろのポケットには携帯なども入れる事が出来て簡単な移動にはバックを持たなくてもいい仕様。

    同素材でシャツもあり、春夏には私もスリーピースで着ようと考えています。

  • Jacket/¥64,900(tax in)

    Shirt/¥50,600(tax in)

    Pants/¥42,900(tax in)
  • ー続いてはデニムのセットアップを。
  • 初めて製作したオーバーサイズのデニムジャケットです。

    ディテールを削ぎ落としたミニマルな仕様になっています。

    世間的には比較的ワークウェアのような作りのものが多いんですが、〈th products〉ではクラシカルなテーラリングを意識しているので、このパンツであれば太いワイドシルエットですがジャケットを羽織れるような雰囲気に仕上げています。

  • Jacket/¥42,900(tax in)

    Pants/¥37,400(tax in)
  • ーこちらのシャツは定番の生地を使用しているものですか?
  • 〈th products〉で定番で使用しているシャツ地はオリジナルで染めているのですが、二回染める事でより深い黒の発色を出しています。

    ディテールとしては前身頃の一部を二重にしていたり、カフスも裏側に仕込むことでシルエット感に張り感を加えています。

    シャツ自体には分量感もあり大きくボリュームがありますが、ディテールのバランス感を考える事で綺麗なシルエットが出る様にデザインを行っています。

  • Shirt/¥53,900(tax in)
  • ー続いてのTシャツは毎シーズン出ているシリーズですよね?
  • アントワープを拠点に活動している写真家“Ronald Stoops(ロナルド・ストゥープス)”とのコラボレーションシリーズです。

    彼はマルジェラのデビュー時に写真家としてのキャリアを始めた人で、毎年アントワープの卒業コレクションを一人選んで撮っており、私が卒業時に撮ってもらった事からの関係性から始まり毎シーズン〈th products〉のビジュアルは彼にアントワープで撮って頂いています。

    今シーズンはコロナの影響で行けなかった事もあり、これまでのシーズンを総集編にしたコラージュになっています。

  • T-Shirt/¥22,000(tax in)
  • ーこちらのボーダーTシャツは初めて見るシリーズですね。
  • 素材自体は定番で使用しているものですが、今回初めて製作した配色です。

    これもグレーの色出しを永遠に繰り返しました(笑)。

    こう言った〈th products〉ジャージアイテムのほぼ全ての肩部分にはこのステッチが入っています。

    長い時間着ていくことを想定して肩部分を補強する為に生まれた、かなり古いミリタリーのディテールから来ています。

    オーバーサイズとコンパクトなサイズの2サイズ展開になります。

  • Oversize/¥30,800(tax in) 

    Regular Size/¥20,900(tax in)
  • ーハットは前回も出していましたよね。
  • 今回が二回目のシーズンで、”KIJIMA TAKAYUKI(キジマ タカユキ)”さんとのコラボレーションです。

    先ほどのセットアップなどに合わせて使っていただきたいですね。

  • Hat/¥24,200(tax in)
  • ー先ほどのハットもそうですが、パンツにもよくこのリングが付いていますよね?
  • これは〈th products〉のボトムスなどにも必ずついている物ですが、このハットや鍵、小物類を付けれる様に付属されていて、次シーズンで発表する予定の皮革小物(コインケースや財布)なども付けられる様になっており鞄を持たなくてもいいような考えに基づいています。

    私自身はアイテムによって付けたままの物もありますし、外して使用しているものもあるので自由に使っていただければと思います。

  • 今回はご自身の背景や概念、次シーズンのアイテム解説と幅広く貴重なお話をお聞きすることができました。

    次回のvo.2はコラボレーションアイテムなどにフォーカスしていますので、ぜひお楽しみに。

  • ※掲載内容は予告なく変更する場合がございます。
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